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第十一章 少年の頃の忘れ去られし記憶

第573話 不吉を食らう竜の力

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 魔王ラジルバフアの暗雲の身体は天から補充する形で再生されていた。

 そして空中でスモルパフア万兵団と城族の守兵団が戦いが繰り広げている。そして劣勢だったスモルパフア達の間を縫って何十体かの守兵達がラジルバフアに接近する。

 対してラジルバフアは大きな暗雲の腕を振り、接近する守兵達をその中に取り込むと、内部を暗雲を鈍器に変えて全方向から――破砕! 腕の中から残骸がポロポロと落ちていく。

 そのとき、勇卵の城からまたも大きな光線がラジルバフアに向けて放たれた。そして、やはりラジルバフアは両手で色合界を掴み、盾とする。



「ハハハハハハハハ」



 色合界に重くのしかかるようなラジルバフアの笑い声が響く。光線は通用しなかった。

 そして、ラジルバフアは光線を放った勇卵の城に両手を向けて、天から暗雲を下ろし金色の殻を包み込んでいく。





 勇卵の城にはヴィンセントと無事に戻って来た八人の子供達、レール、ファンタ、ヨルヤ、カイザル、サシャープ、ダイグラン、ミハニーツ、クラッカが居た。各々武器を構えていた。

 彼らの周りにある金色の殻を、今、暗雲が包み込んでいく。



「先生! オレ達に何か出来ることは!?」



 レールが焦りを露わにして言った。



「心配ない、いいから、じっとしていなさい」



 ヴィンセントは自分の後ろに子供達を集めて守るように立っていた。彼は今、暗雲に覆れている金色の殻を錫杖を掲げて聖法による強化をしているようだった。しかし、暗雲が少しずつ染しみ込むように侵入していた。



(この暗雲、やはり聖法を弱める力があるのか……あとはロードとムドウだけだ、それまでは何としても持ち堪えないと)



 ヴィンセントの考えも虚むなしく、ラジルバフアが次の行動を取る。

 掴んだ色合界の地を勇卵の城に向かって投げ飛ばし、金色の殻に激突するとひびが入った。色合界を消し去る効果を持つはずの金色の殻の力が暗雲によって弱まっていたのだ。激突の衝撃が振動として勇卵の城にも伝わる。



「ハハハハハ、覆い尽くしててやるぞ。我が暗雲がこの地全てを」



 ラジルバフアが高らかに自分の暗雲の力を誇示する。そのとき――



「――魔王ラジルバフア!」



 ガリョウが空気を震わす程の大きな声で叫んでいた。彼は長くそびえ立つ岩山の峰に君臨してラジルバフアと対峙する。



「――! そこに居たか英雄め」



「ロード! そこから絶対に動くな!」



 ガリョウが遥か下にある岩の影に隠れていたロードに指示した。ロードの方はラジルバフアに位置を知らないように無言で頷くだけにした。



「行け! スモルパフア万兵団ばんぺいだん!」



「「「「「モアアアアアアア!」」」」」



 何千体ものスモルパフアが一斉いっせいに岩山の峰にいるガリョウに襲いかかって行く。



「それだけか、魔王……なら、もう全部喰くらうぞ」



 ガリョウがその光景を眺めながら竜のような目に殺意を宿し、魔王達との戦いに終止符を付ける宣言をした。

 すると、ガリョウはその場で息を大きく吸い込み腹に力を溜ため思いっきり身体を仰け反らせた。赤い剣を握る手にも力が入る。

 そして、

 腹に溜めた力を一気に吐き出した。

 ただし、

 溜め込んだ力は豪快な炎となって吐き出された。



 ガリョウの口から吐き出された炎は、岩山の峰から噴き出すように上へ上へと燃え上がり、



「モアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」



 灼熱の炎が、迫り来るスモルパフア達を残らず焼き尽くす。そして、



「――ッ!? 炎か! しかし愚かな、これで我を焼き尽くせると?」



 燃え上がる炎は、巨大な魔王に届くくらいの勢いを持っていたが、ふと、ラジルバフアの目の前にまで来ると炎の様子に異変が生じた。上空に到達した炎が一点に集まり、その形を変えて行く。



 ラジルバフアを前に集まった炎は、対する魔王の巨大な目よりは小さい竜の姿となった。大きな顔を持つ割に身体の小さい竜だった。



「違う、オマエを喰らう竜だ」



 ガリョウが炎を吐き切った口で唸るように言った。

 炎の竜は大きな口を開くと辺りの空気を吸い込み始めた。息をするというよりも飲み干す勢いに近い、そして、その口に吸い込まれて行くのは空気だけではなかった。



「――ッ!?」



 なんと、魔王ラジルバフアの暗雲の身体が吸い込まれ始めた。そうすると炎の竜の身体が膨らみ、次第に顔よりも身体の方が大きくなる。つまり炎の竜は魔王を食べているのだ。



「モ、モアアアアアアアアアアアアアア!?」



 それはラジルバフアの暗雲に繋がれていたスモルパフア達も例外ではない、恐るべき吸引力を前に飲み干されて行く。それに比例して、どんどん炎の竜の身体が膨らんで大きくなる。



「――そうはさせん!」



 事態を把握したラジルバフアが、その対処に出た。暗雲の両腕を大きく左右に広げ背後まで回し、そこから一気に前に振り、目の前にある自らを飲み干そうとする炎の竜に対して、両手で挟み撃ちにして押し潰す。



 ――瞬間! 竜を挟み撃ちにした暗雲の両手が爆発した。



「ぬおっ!?」



 その爆発の原因は竜にあった。ラジルバフアが炎の竜を押し潰した為に、その身体を構成していた炎が勢いよく弾けて、暗雲の両手を吹き飛ばしたのだ。更にその爆発はとてつもなく大きく広がり続けていて、ラジルバフアの両手どころかその全身を吹き飛ばすくらい凄すさまじい爆風を生んだ。

 暗雲の巨人ラジルバフアの身体は爆発によって吹き飛ばされた。だが、



「こんな爆発で我を倒せると思っているのか?」



 辺りを漂う暗雲から重くのしかかるような声が響き渡る。爆風によって身体を吹き飛ばされたからと言ってラジルバフアは倒されない。暗雲は多少損失するも本体が全て消し飛ばされない限り、色合界を覆い尽くす天の暗雲が身体を再生させるのだ。

 だが、ラジルバフアは勘違いをした。



「爆発じゃねー、大口を開いたんだ」



 ガリョウの言う通りその爆発はまさしく大口だった。どこまでも広がる爆発はやがて先程の暗雲の巨人ぐらいにまでに届くと、突然、辺りを漂う暗雲ラジルバフアを包み込むように形を丸め、更に全てを飲み干す勢いを持った吸引力が備わって暗雲の魔王を残さず食べていた。



「おおおおおおおおおおおおおおお!」



 辺りを漂う暗雲のラジルバフアが広がる爆発の大口に飲み込まれて行く。



「ばくはつぅぅ! そのものがああぁぁぁぁぁ! 竜のぉ口だとおおおおおおおおぉ!」



 爆発の大口に飲み込まれそうになりながらも必死の抵抗で逃れようとするラジルバフアが叫ぶ。

 モアー、モアーと叫ぶスモルパフア達は抵抗も許さず飲み込まれて行く。



「ぬああああああああああああああああぁ!」



 天を覆い尽くす暗雲を残して、ラジルバフアの本体だった全ての暗雲が爆発の大口に飲み込まれる。



「覆い尽くされるだとおおおおおおおお! この大いなる魔王ラジルバフアがああああああああああぁ!」



 広がり続けた爆発の大口がラジルバフアを完全に閉じ込め丸くなると、徐々にその大きさを縮めて行く。大口の中では炎が暗雲の魔王を焼き尽くしている。



「竜は魔を喰くらう」



 その光景をただ見ていたガリョウは勝負が決したことを悟った。



「ああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



 爆発の大口がラジルバフアを中で焼き尽くしながら小さくなる。

 丸いままの形を保った炎が小さくなる。

 暗雲の魔王の叫びが止んでも覆い尽くしたまま小さくなる。

 そして、小さくなりすぎて、見えなくなるように燃え尽きた。





 戦いが終わった。

 魔王ラジルバフアとスモルパフア万兵団は全てガリョウの炎の竜によって飲み込まれ消滅したのだ。

 色合界を覆い尽くす暗雲だけを残して魔物達は消え去った。

 不吉の暗い影は消え去ったのだ。

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