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第十一章 少年の頃の忘れ去られし記憶
第567話 友を助ける! 魔を討つ光の剣
しおりを挟む「いやだ! 待って! 待ってくれ! ムドウ! 声を出してくれ!」
ロードは魔物に向かって走り出し、手にした柄で殴りかかる。
「やめろ魔物! やめろ! ムドウを離せ!」
しかし、ロードの動きに先程のキレはない。痛む身体と混乱した精神がロードの動きを制限している。そして、だから、簡単に魔物に薙ぎ払われた。ロードが数メートル飛ばされる。
「くぅぅぅぅぅぅ! なんで、卑怯だ! 待て、待ってくれ! ムドウを掴んだままなんて、使えるわけないだろぉぉぉ!!」
ロードは倒れている暇もわがままを言う暇もないことはわかっていた。しかし、それでも自分の中にあるものが邪魔をした。
それはロードが常に日頃から悩なやんでいたことだ。
何を間違っても人は殺したくない。
「やめろぉぉぉぉ!! 魔物ぉぉぉぉ!! 殺すなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
だから魔物がムドウを人質同然のようにその手に持っている限り、ロードに成す術はない。もう出来る事はただ叫ぶこと以外に無くなっていた。
「誰かぁぁぁぁぁぁぁぁ!!――たす――」
――信じる――
「――!?――」
声が聞こえた。誰かが自分に向けた声だとすぐにわかった。その声以外の雑音は聞こえなくなるくらい聞き入っていた。
「勇者になる……キミを……信じる」
それはいつも隣りにいた友人の声だった。
「…………ロード……助けて…………」
血反吐を流すその友人の口から声が出て、自分に助けを求めていた。
「…………………………ムドウ」
ロードが立ち上がる。
「モアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
ムドウにまだ息があったことを知った魔物は緩めていた手にもう一度力を入れてみる。
すると、ある一点から光が放出された。
ムドウを潰そうとした魔物の大きな目を引きつけられるくらい輝かしい光だ。
その光はロードが両手で掲げた柄から放出されていて、その身体の四倍程のとても長く大きい剣の形をしていた。
その光から感じ取れるものは強さ、鋭さ、温かさ、優しさだった。
その光の正体はロードの持つ生命力そのものだった。
「ムドウごめん」
かつて、その光の剣は友人を傷付けその身体を赤く染そめ上げた。それは魔王というまだ見たこともないものに向けて振るっていたからだ。
「今、助ける」
だが今度は違う。魔物を倒す為ではなく友人を助ける為にこの光の剣を振るのだから、当たる訳はない。
ロードが前に一気に飛び、ムドウを掴む魔物に向かって、一切の乱れもなく逸れることもなく、大きな光の剣が上から下に振り下ろされる。
「モア……?」
大きな一つ目の魔物が光の剣の一撃に両断された。
「モッ! モアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
叫ぶ魔物がその手に捕えていたムドウを離す。
すると、ロードは光の刀身が消えた柄をすぐさま捨て、ムドウの元へ走り両腕を広げ、落ちて来る友人を正確に優しく受け止めた。
「――ムドウ!――ムドウ!」
ロードが涙を流しながら友人の安否を確認する。
「あ……ああ、ロード……」
朦朧とした意識の中でムドウが返事をした。
「ごめんごめんごめん」
「何を……ここは私がお礼を言うところだろ?」
「違う、わかったんだあのときムドウにあんなことが起きたのは、オレがムドウを魔王の代わりにしたからだ、だから、全部オレのせいなんだ!」
「じゃあ……今のは?」
「ムドウが助けてって言ったから」
「それなら私が言うことはありがとうだ……キミはやっぱり勇者になれるよ」
「なんでもいい! ムドウが生きててくれるならそれでいい! ごめん傷付けてまたこんなに苦しめて……ごめん」
「やめてくれ……こっちまで泣けて……くる…………そうか……生きてればなんでもいいか……ロード……助けてくれてありがとう」
そのとき、両断された大きな一つ目の魔物から、大量の暗い煙が噴き出し天へと向かっていた。
「また、煙が?」
地面に友人をそっと置いてロードが言った。
「心配……ない……魔物は倒すと……ああやって霧散するらしい」
ムドウがゆっくりと身体を起こしながら言った。
「……そうだったな……ということはアレはやっぱり本物の魔物だったのか……訓練はどうする?」
「城に戻ろう……先生に魔物が出たって伝えないと……痛っ!?」
「ムドウ肩を貸すよ……それと自力で動けるくらいに生命の力で回復させよう」
「ああ、ありがとう……やっぱりその力は凄いな……まだその力の正体は怖いか?」
ロードの肩に手を回し、身体を支えられたムドウが立ち上がる。
「さぁ……けど助けられた。今はそれだけわかれば怖くない…………」
「……そうか」
ゆっくりと二人が歩き出す。
「ところで、生命力送ってるけど来てる?」
「……いや、来てない、まだまだ練習が必要みたいだな……ハハハ」
二人が歩き去るのを、その大きな目の部分が両断されなかった魔物が見ていた。そして両断された身体からは今も暗い煙が出ている。
それはまるで不吉の前触れのように終わることなく噴き出し続けている。
「……オイデクダサイ……」
その大きな目の魔物が呟いた。
そして身体全体から暗い煙が今までの何十倍も、何百倍にも噴き出して、天に昇って行く。
「「――!?――」」
ロードとムドウがたった今それに気がついた。その異様な光景は最早、霧散では説明できなかった。ただ分かるのは、その暗い煙が不吉であることだけだった。
その煙の発生源たる大きな目の魔物は完全に煙になる前にこう言った。
「……オイデクダサイ……魔王ラジルバフア様……」
不吉な暗い煙が天へと昇っていく。
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