上 下
567 / 743
第十一章 少年の頃の忘れ去られし記憶

第567話 友を助ける! 魔を討つ光の剣

しおりを挟む

「いやだ! 待って! 待ってくれ! ムドウ! 声を出してくれ!」



 ロードは魔物に向かって走り出し、手にした柄で殴りかかる。



「やめろ魔物! やめろ! ムドウを離せ!」



 しかし、ロードの動きに先程のキレはない。痛む身体と混乱した精神がロードの動きを制限している。そして、だから、簡単に魔物に薙ぎ払われた。ロードが数メートル飛ばされる。



「くぅぅぅぅぅぅ! なんで、卑怯だ! 待て、待ってくれ! ムドウを掴んだままなんて、使えるわけないだろぉぉぉ!!」



 ロードは倒れている暇もわがままを言う暇もないことはわかっていた。しかし、それでも自分の中にあるものが邪魔をした。

 それはロードが常に日頃から悩なやんでいたことだ。



 何を間違っても人は殺したくない。





「やめろぉぉぉぉ!! 魔物ぉぉぉぉ!! 殺すなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 だから魔物がムドウを人質同然のようにその手に持っている限り、ロードに成す術はない。もう出来る事はただ叫ぶこと以外に無くなっていた。



「誰かぁぁぁぁぁぁぁぁ!!――たす――」







 ――信じる――







「――!?――」



 声が聞こえた。誰かが自分に向けた声だとすぐにわかった。その声以外の雑音は聞こえなくなるくらい聞き入っていた。



「勇者になる……キミを……信じる」



 それはいつも隣りにいた友人の声だった。



「…………ロード……助けて…………」



 血反吐を流すその友人の口から声が出て、自分に助けを求めていた。





「…………………………ムドウ」



 ロードが立ち上がる。



「モアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」



 ムドウにまだ息があったことを知った魔物は緩めていた手にもう一度力を入れてみる。



 すると、ある一点から光が放出された。



 ムドウを潰そうとした魔物の大きな目を引きつけられるくらい輝かしい光だ。





 その光はロードが両手で掲げた柄から放出されていて、その身体の四倍程のとても長く大きい剣の形をしていた。

 その光から感じ取れるものは強さ、鋭さ、温かさ、優しさだった。

 その光の正体はロードの持つ生命力そのものだった。



「ムドウごめん」



 かつて、その光の剣は友人を傷付けその身体を赤く染そめ上げた。それは魔王というまだ見たこともないものに向けて振るっていたからだ。



「今、助ける」



 だが今度は違う。魔物を倒す為ではなく友人を助ける為にこの光の剣を振るのだから、当たる訳はない。



 ロードが前に一気に飛び、ムドウを掴む魔物に向かって、一切の乱れもなく逸れることもなく、大きな光の剣が上から下に振り下ろされる。



「モア……?」



 大きな一つ目の魔物が光の剣の一撃に両断された。





「モッ! モアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」



 叫ぶ魔物がその手に捕えていたムドウを離す。

 すると、ロードは光の刀身が消えた柄をすぐさま捨て、ムドウの元へ走り両腕を広げ、落ちて来る友人を正確に優しく受け止めた。



「――ムドウ!――ムドウ!」



 ロードが涙を流しながら友人の安否を確認する。



「あ……ああ、ロード……」



 朦朧とした意識の中でムドウが返事をした。



「ごめんごめんごめん」

「何を……ここは私がお礼を言うところだろ?」



「違う、わかったんだあのときムドウにあんなことが起きたのは、オレがムドウを魔王の代わりにしたからだ、だから、全部オレのせいなんだ!」

「じゃあ……今のは?」



「ムドウが助けてって言ったから」

「それなら私が言うことはありがとうだ……キミはやっぱり勇者になれるよ」



「なんでもいい! ムドウが生きててくれるならそれでいい! ごめん傷付けてまたこんなに苦しめて……ごめん」

「やめてくれ……こっちまで泣けて……くる…………そうか……生きてればなんでもいいか……ロード……助けてくれてありがとう」



 そのとき、両断された大きな一つ目の魔物から、大量の暗い煙が噴き出し天へと向かっていた。



「また、煙が?」



 地面に友人をそっと置いてロードが言った。



「心配……ない……魔物は倒すと……ああやって霧散するらしい」



 ムドウがゆっくりと身体を起こしながら言った。



「……そうだったな……ということはアレはやっぱり本物の魔物だったのか……訓練はどうする?」

「城に戻ろう……先生に魔物が出たって伝えないと……痛っ!?」



「ムドウ肩を貸すよ……それと自力で動けるくらいに生命の力で回復させよう」

「ああ、ありがとう……やっぱりその力は凄いな……まだその力の正体は怖いか?」



 ロードの肩に手を回し、身体を支えられたムドウが立ち上がる。



「さぁ……けど助けられた。今はそれだけわかれば怖くない…………」

「……そうか」



 ゆっくりと二人が歩き出す。



「ところで、生命力送ってるけど来てる?」

「……いや、来てない、まだまだ練習が必要みたいだな……ハハハ」









 二人が歩き去るのを、その大きな目の部分が両断されなかった魔物が見ていた。そして両断された身体からは今も暗い煙が出ている。





 それはまるで不吉の前触れのように終わることなく噴き出し続けている。



「……オイデクダサイ……」



 その大きな目の魔物が呟いた。

 そして身体全体から暗い煙が今までの何十倍も、何百倍にも噴き出して、天に昇って行く。



「「――!?――」」



 ロードとムドウがたった今それに気がついた。その異様な光景は最早、霧散では説明できなかった。ただ分かるのは、その暗い煙が不吉であることだけだった。



 その煙の発生源たる大きな目の魔物は完全に煙になる前にこう言った。









「……オイデクダサイ……魔王ラジルバフア様……」









 不吉な暗い煙が天へと昇っていく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...