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第八章 スライム達の暮らす可愛らしい異世界

第369話 ニセモノ調査員たち

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 林の中・ドノミのテント。
 シャワーカーテンに囲まれた密室で裸体のスワンがシャワーを浴びていた。
 ジャーーーーと水しぶきが飛び散り、水がしたたかにスワンの裸体に沿って流れていく。

 一方テントの方ではロードたちがドノミさんに連れられていた。

 スーースーーとロードの頭の上で眠るトンガリ。涎を垂らしている。

「まだ昼過ぎだって言うのに深く眠っているな……」

 ロードがトンガリの重さを感じて言う。

「山の上り下りで疲れたんだろ。オレたちは平気だが、それとも実は夜行性とか……」

 ハズレがジョーダンを言う。

「いえ、デフォルメスライムのシンプル族は夜行性ではありません。眠っているのはこの辺りにちりばめたスリープシードの効果です」

 ドノミがロードとハズレとグラスの飲み物を用意する。

「スリープシード?」

 ロードが訊く。

「この辺りにスライムが近寄ると昏倒する装置です。見た目は玉ねぎのような形をしていますが、先端から周辺の空気を変換する気体を噴出し、スライムがそれを吸うと眠ってしまうんです。本来はスライムが眠っている間にこことは違う別の場所に移すのですが、そのスライムには人間の姿が見られてしまったみたいなので、こちらの刺激注射で対応します」

 ドノミさんがトレイに乗った注射器を持って来る。

「な、何だそれは……?」

 ロードが口をつけかけたコップを手に持ったまま訊く。

「注射の中にスライムの記憶を刺激する液体が入っているので、注入すると丸1日ぐらい記憶が飛びます。私たちの顔も存在もスライム達に知られることはなくなるでしょう」

 ドノミさんが説明する。

「待ってくれ……別に知られたからと言ってそんなものを使わなくても……」

 ロードが頭の上のトンガリを両手で掴む。

「? 何を言っているんです。既に顔を見られているんですよ。放っておく訳にはいかないでしょ?」

 ドノミが至極当然という顔をしながら言う。

「顔を見られて何が問題なんだ」

 ロードが真面目に訊く。

「それは、何が訊きたいんですか? まさかスライムに人の存在を知られてはいけないことを知らずに、ここへ来たのですか?」

 今度はドノミさんが真面目に訊く。

「いや~~、その、こいつは新人なんだ。調査員って言っても右も左も分かってなくて、ただ忘れてしまっただけなんだよ」

 ハズレがロードの肩を取りフォローする。

「そうですか……では、今教えましたので、しっかり覚えておいてください。さぁそのスライムをこちらに――」

 ドノミが手を差し伸べたとき――

「待った」

 ハズレが反応した。

「何か?」

「このスライムは今回の調査に必要なんだ! だからまだ記憶を飛ばさなくてもいい」

 ハズレが席から立ち上がった。

「調査に必要なら仕方ありませんが、そのスライムと出会ったのはいつ頃ですか?」

 ドノミさんが手に肘を置いて言う。

「今日の昼前だ」

 ハズレが答える。

「なら記憶を飛ばすのは明日の朝にしましょうか」

「そうしてくれ」

 ハズレが席に腰を下ろす。

「ハズレ何を調査しているのか分かったのか?」

 ロードがヒソヒソと訊く。

「分かるわけないだろハッタリさ。分かったことと言えば、スライムに人という存在を知られてはいけない」

 ハズレがヒソヒソと話す。

「では次に入界時の管理局本部で配布される。入界パスをお見せください」

 マニュアルを読みながら言うドノミさん。

「「……………………」」

 二人は固まった。

 この時、
(まずい)
 ハズレはそう思った。

「どうしました? 入界パスを見せてください」

 ドノミさんが催促する。

「今更見せる必要あるのかなぁ~~」

 ハズレが何気にはぐらかす。

「規則ですから見せてください。見せてもらったという記録を残さないといけません」

 引き下がらないドノミさん。

「ハズレ……」

 ロードが呼び、

「うう」

 ハズレが珍しく追い込まれる。そして思いたった策が――

「ロード、パスを出してくれ!」

 ハズレはロードに振った。

「――――!? 何を言っているんだ!? オレにどうしろと!?」

「いいから! アレ渡しただろ!? 出すんだ!」

 ロードに詰め寄るハズレ。

「あの~~早く見せていただけませんか?」

 ドノミさんが待ちくたびれていた。

「オレが? そのパスとかいうのを!?」

 困るロード。

「入界パスです見せてください」

「さてはロード忘れたなぁ!」

 ハズレの作戦が始まった。

「――!? (そういうことか)」

 ロードがハズレの目配せで作戦に気が付いた。

「ああ、どんなんだった?」

 ロードがドノミさんに訊く。

「新人さんしっかりしてください。合成紙を重ねて作られたような、丈夫な札のようなものです」

 この時、
(なるほどそういうものか)
 ハズレは情報を手にし口角を吊り上げた。

「えっと……それ……か」

 今度はロードが困る。だが、

「さては朝の通った村の近くに落として来たな? 何回か落としてないか確認したからなぁ」

 ハズレがロードの肩に手を置く。

「えっ、あ、ああ」

「まったく新人に任せるべきではなかったな……これはオレの責任だ」

 ハズレが言う。

「落とした!? 村の近くに!? 何をしているんですか!? もしそれをスライムに拾われたら問題ですよ!? 審議に掛けられます!」

 ドノミさんが血相を変えた。

「あーーそれはまずいな」

 棒読みのハズレ。

「こういう時は直ちにパスが紛失した場所に戻って探すしかありませんが、あなた達はまず、着替えを済ませないと……どの辺りに落としたか分かりますか?」

「んーーこの近くなんだよなーー」

「それだけでは探しようが……」

 ドノミの焦りを見たハズレはロードを見る。

(流石だハズレ……見たこともないモノを忘れっぽい新人というオレを使って聞き出し、即座にその行方を他所に移しかえ話題をこちら側の流れに反らした)

 ロードの口角も吊り上がる。

「あーーーーなんて人達を上は派遣したんだろう……こういうときマニュアルにはなんて……」

 必死でマニュアルを見ながらため息をつくドノミさん。

「どうするこれから」

 ロードはヒソヒソと訊く。

「入界パスとかいうのこのまま探しに行かないとなると、オレたちもどうなるか分からないから、こっちで手を打とう」

 ハズレはヒソヒソと話す。

「なぁ村ならわかると思う」

「えっ?」

「ほら、この眠っているスライム……こいつを見つけたのが、その村の近くだったんだ」

「――――!?」

「こいつにその村まで連れて行ってもらう」

(なるほど、トンガリが向かおうとしていた村か)

 ロードがハズレの作戦に感心する。

「…………そうですね。わかりました……どうせ記憶はまだ飛ばしませんし、皆さんの着替えが終わり次第、出発しましょう」

 冷静さを取り戻すドノミさん。

 この時、
(これで入界手順とやらは保留に出来る。幸い一切疑っていないようだし……さて、それじゃあ本題に入ろうかなーー)
 ハズレはこの異世界のことを知ろうとしていた。そして被っていた羽根帽子を机の上に置く。
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