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第七章 千年以上眠り続ける希望のダンジョンの宝

第342話 グラスが救われればそれでいい

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 希望のダンジョン・最奥。

 謎のゴスベージャスの刺客と魔王フリフライが空中で、ガキン!! ガキン!! ガキン!! ガキン!! と戦っていた。

 グラスに生命力を分け与えて、傷を治療するロード。ポタポタと顔を汗が伝い流れていく。

(腹部だけじゃない)
(全身にあざや傷が多い)
(三日間も魔王の所に居たせいか)
(何もされないわけがなかった)
(もともと目を付けられていたんだ)
(これのせいで余計な体力が無くなってる)
(疲れも酷い)
(特に精神的な)
(当然だ)
(オレが無理やり連れまわした)
(その束縛が子供時代の奴隷環境のトラウマを思い出させたかもしれない)
(オレが負担になっていたかもしれない)
(それどころか魔王の元で三日間死と向き合い続けたはずだ)
(恐怖が全くないなんてありえない)
(何をしていたんだオレは……)
 流れているのは汗だけではない、自分の罪の涙だった。
(結局グラスをこんな目に遭わせたのはオレじゃないか)
(何が信じろだ、何が救うだ、何も正しくなんてなかった)

「うっ――――」

 ロードはぐらりと倒れそうになる。

(くっ、バカここで意識を失うな。ダメだ)
(グラスの命が危ないんだ)
(絶対に絶対にダメだ)
(オレの生命力ならいくらでも持って行って構わない)
(生きる為に必要なら何でもオレから持って行け)
(だからお願いだグラス)
(もう一度お前の声を聞かせてくれ)

「はぁ……はぁ……」

 と息切れし始めるロード。だいぶ疲れてきていた。

 フーーーー、フーーーーと息を吹き貸すグラス。

 目をスッと開いた。
(何だ? あの光……星?)
 グラスには謎の襲撃者と魔王フリフライの上空での戦いがそう見えた。
(懐かしい。昔は星ばっか見ていたな)
(オハバリと一緒に……)
 グラスはその名を口にする。

「オハバリ」

「グラス!! 気が付いたか!? 気が付いたんだよな!?」

 ロードが確認する。

「テメェ!!」

 グラスがロードを見て起き上がる。

「痛ッ!!」

 傷口を抑えるグラス。

「大丈夫か!?」

「腕!? 枷がねぇーー!!」

 自由になった腕を動かしながら言うグラス。
(!!!? 死んでねー!!)

「グラス、まだ治療は終わってない、少しじっとしていてくれ、でもよかった。またお前の声が聞けて本当に良かった」

 ギリッと歯ぎしりするグラス。

 そしてロードの側頭部をドガッと蹴る。

「――――!!!?」

「グラッ――!!」

「何をしたぁ!! オレに!! 何をした!!」

 裏拳でロードを殴りつけるグラス。

「がぁ!!」

「何故死んでねぇ!! 傷が治りかけていやがる!! 台無しだぁ!!」

 グラスがアッパーを食らわせる。

「うがっ!!」

「何が良かっただぁ!! 自己満足やろーー!! ふざけんなぁ!!」

 グラスがロードの腹を思いっきり殴る。

「あれも」

 グラスが頭を殴る。

「これも」

 グラスが回し蹴りを食らわせる。

「あぐっ!!」

 頬をぶん殴られる。

「テメーの思い通りか!! 余計なことすんじゃねぇーー!!」

 ドガッと殴られ続けるロード。

「オレの勝ちだろーが!! オレから死に方まで奪ってんじゃねーー!!」

 叫び散らすグラス。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 息切れするグラス。

 葉っぱの上に倒れるロード。

「どうしたぁ……立てよ。いつもみてーに抑えてみろ!!」

 グラスが言う。

「うぅ……う……」

 ロードがフラフラになりながらも立ち上がる。

「なんだそりゃ……そんなんだったか? 立ち姿……そんなんだったか!!」

 グラスが拳を握ってロードを殴りつける。

「がぁ!!」

 ズザッと葉っぱの上に倒れていくロード。

「寝てんじゃねーよ、立て!! かかしがぁ!!」

 ロードはゆっくり立ち上がる。

「テメーは間に合わなかった!! オレに負けた!! オレが正しいんだ!! なのに!! 何だその笑いは!!」

 腫れた顔をしていてもロードは笑っていた。

「ああ、オレは間に合わなかった。間違っているのかもしれないし、お前に負けた。けどオレはこれでいいんだ」

 ロードが堂々とグラスの前に立ち宣言する。

「お前が救われればそれでいい」
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