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第六章 盗み、奪い、取る、緑色の襲撃者

第286話 グラスへのしつけ

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 ざわざわと人だかりができていた。

「オイ! 道を開けろ! オレだオレのお通りだ!」

 ツルバシセン団の団長リョウが通る。あとに続くロードたち。

「――――!!」

 広場の中心部には二人の男がいた。

「誰でもいいさっさとしろ! 馬だ! 馬を持って来い! こいつをぶっ殺すぞ!」

 そこに居たのはグラスと盗賊団の一員だった。状況は男が膝をついたまま、グラスがそこに足でガッチリと胴体にしがみつき、足の指に挟んだ瓶の破片で男の喉元を狙っていた。

「やめろグラス、うちのもんを離せ!」

 団長が言う。

「だ、団長すまねぇーー食事を持って行ったらしくじった!」

「黙れ殺すぞ!! オイ! 団長さんよ!! さっさと馬を持って来いよ!!」
「どうした動け!! こいつを殺して別の奴も殺してやろーか!?」

 グラスが叫ぶ。

「このやろー調子に乗りやがって! 皆ちれーー、家に入れ……巻き込まれるぞ!!」
「オイ誰か馬を用意しろ」

 団長が野次馬たちに言い、団員の一人に馬を頼んだ。

「今取りに行ってます」

「グラスやめろ!! その人を離せ!!」

 叫んだのはロードだった。

「――!! ちっテメーか……」

 食べさせるためだったんだろう。口のマスクが外されていた。

「丁度いい、もうテメーらともおさらばだ。この鬱陶しい腕の拘束具を外せ!! 拒否したらこいつを殺す!! その辺の奴も殺す!!」

 グラスは要求を言った。

「ロードどうする?」

 ハズレが訊く。

「鍵……外すしか……」

 スワンが囁く。

「グラス――やめろ」

 あくまでロードは態度を変えない。

「聞こえてんだろ!! 鍵を外せつってんだろーが!!」

 男の喉元に刃を食い込ませる。

「ひぃーーーー!!」

「ロード鍵を――」

 ハズレの意見をロードは手で制した。

「グラスやめるんだ」

 テクテクと男とグラスの元へ歩いていく。

「舐めやがってかかしがぁーーーー!! やってやるぶっ殺してやる!!」

「どうする気だロード!!」

 ハズレが叫ぶ。

「こうなったら私が……」

 精霊の術を発動させようとするスワン。

 その時、バカラッバカラッと馬の足音が聞こえて来た。

「馬持って来ました」

「待て……」

 団長は様子を見ていた。

「オレだ。オレを殺せばお前は自由だ」

 ロードは両腕を広げてみせた。

 グラスの表情が怒りに満ちていく。

「鬱陶しい!! 気色わりーー!! 指図しやがって!! テメーだけはこのオレがぶっ殺す!!」

 その時グラスは人質を解放してロードの元まで一直線に走って来た。

『『『――――!?』』』

 盗賊たちは唖然と見ていた。

 ドッと鈍い音が炸裂した。ロードがグラスを押し倒して取り押さえたのだった。

 足をじたばたとばたつかせるグラス。

「くそやろーー!! 殺す!! ぶっ殺す!! 離せ―どけー!!」

「離さない!! どかない!!」

「死ねーーーーーー!!」

 グラスは叫び続ける。まるで敵に向かって吠える狂犬の様に、

「死なない」

「何なんだよ!! テメーは!! 何でオレを追いかけてくんだぁぁぁ!! 何で助けに来やがるんだぁぁ!!」

「当たり前だ。お前の命はオレが預かってる。その命見捨てるわけがない」

 ロードは落ち着いて口にした。

「ありがとうグラス……」

「ハァアア!!」

「オレを殺しに来てくれてありがとう……」

 ロードが自分の元へ戻って来たグラスにお礼を言った。まるでイヌに褒美を上げるように

「踏みとどまってくれてありがとう」

 人質にされていた男は無事保護された。

「くっ、くそがあああああああああ!!」

 グラスの咆哮が町中に響き渡る。

 そしてロードはグラスの上半身に馬乗りに跨ったまま、

「今日はもう寝ろ」

 ドガッと渾身の拳を打ち込み気絶させた。もうそれは夜の出来事だった。


 ▼ ▼ ▼


 チュードオリ広場。

「野次馬共戻れ! 終わりだ終わり!!」

 スワリオ副団長が仕切る。そうするとたまっていた団員たちがその場から去って行く。

「オイ、アイツはあれでいいのか?」

 リョウ団長がハズレに訊く。

「ああ、ロードなら大丈夫さ」

「ハズレせめて私たちだけでもついていた方が……」

「いや、今グラスを刺激するようなことは避けたい。ロードを信じて任せよう」


 ◆ ◆ ◆ ◆


 チュードオリ・牢獄の中。
 気絶して横たわるグラスの姿があった。その身体に緑色のマントを掛けられていた。

 ▽ ▽ ▽


 手を見る。左腕の手だ。

 複数人の人が武器を持って殴りにかかってくる。

 うあああああああああああああああっと叫び声が聞こえてくる。

 一人の緑色の髪を乱雑に切った少年が膝を抱える。

「オレは……悪くねーー」

 少年は涙を流す。


 ▼ ▼ ▼


 スースーと寝息を立てるグラス。牢獄の中で大人しく眠っているようだった。

 その傍らにはロードがいた。ロードも牢獄の中で共に夜を過ごす気でいた。

 ロードは毛布を持って、眠るグラスに近づいていった。

 バサッと毛布を掛けてあげるロード。グラスに優しく接してあげた。

 ロードは牢獄の中でこう思った。

(グラスはきっと悪くない)
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