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第六章 盗み、奪い、取る、緑色の襲撃者

第264話 胃液は水で薄めて……

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 ロードとハズレはこの異世界の環境下で育った、普通とは違うトカシボウと戦っていた。
 トカシボウが何やらガブガブと崩れた家や地面を食べている。

「この個体は危険だ! 食べれば食べるだけアレの量が増す。アレが来る前に今ここで両断する!」

 ロードは木片と地面を食べ続けるトカシボウに向かって行く。そして赤き竜封じの剣を持って両断の構えを取るが、
 
 その時ロードは目を見開いた。何とトカシボウは地面を食べながら突進してきた。そして頭部に生えた一本の角がロードを襲う。何とか剣で受け身に入ることが出来たが、そのままの勢いで吹っ飛ばされる。

「うっ!!」

「ロード!!」

 何とかハズレがロードを受け止め、抱きかかえて勢いを殺せた。

「ボゴゴゴ!!」

 トカシボウの頭と体が上がっていく。立ち上がる気でいるのだ。

「あのまま食べながら突っ込んでくるとは……」

「ロード!! 来るぞ!!」

 立ち上がったトカシボウが両腕を上げる。そして――

「妖怪液!! 躱せ!!」

 ザッザッと攻撃の狙いから外れる二人共。トカシボウは両腕でお腹を打ち付けて口から、ガボボボっと胃酸にも見える液体を吐いた。

 降りかかった家の木片と地面は溝ができるくらいにまで溶けて行った。溶けた場所は深さ何と75センチメートル。驚異の攻撃力だった。

「アレを受けたら終わりだ!」

「だが、腹から吐き出した今ならアレはない。両断のチャンス!!」

 その時ロードとハズレは目じりにこの戦いに紛れ込んではならないものを発見した。

「うわぁ!! 無理だよ!! ドタ!! レジ!!」

 鍋を被った少年が魔物を前に言う。

「ミノ!! 何のための特訓だよ!!」

「そうだ!! 追い払うぞねーちゃんたちの為にも!!」

 ドタが勇猛果敢に武器を構える。

「ドタ!! レジ!! ミノ!! 何をしているの!? 戻ってきて!!」

 そこに現れたのは追いかけて来たエミさんだった。

「エミねーちゃん!」「ねーちゃんは危ないから下がってて!!」「皆は俺達が守る!!」

 ミノ、レジ、ドタといった少年たちが叫ぶ。

「バカ言わないで! いい子だから戻ってきて!」

 必死に説得するエミさん。しかし少年たちは引き下がらず、騒ぎの方向を向くトカシボウ。

 ゴブッと口から唾液が零れだす。

「ダ、ダメ!!」

 エミさんは少年たちの前に出て魔物から庇うような形の位置取りをした。

「ねーちゃん!!」「危ないって!!」

 ズンズンと足音を鳴らせて近づくトカシボウ。

「行け!! ミチル!!」

 ロードの青き剣がトカシボウの右足を狙い飛んで行く。そして切断は出来なかったものの膝カックンの要領で体勢を崩し転ばせることに成功した。

「ボウウエ……」

 ズシンと背中から倒れるトカシボウ。そして青き剣を回収するロード。そのままエミさんたちを背中に立つ。

 そして、ゴボボボボボボっと唾を吐き出したトカシボウ。それを赤き剣と青き剣の乱舞で弾いていくロード。

 それでも唾液の取り残しがありエミさんたちに降りかかろうとする。そこをハズレはどこからか持って来た黒いカーテンでガードした。カーテンにバチャリと唾液がかかり溶けていく。

「キミたち!! 守るべき人を危険にさらしてどうする! 敵と戦うよりその人の安全のことだけ考えるんだ!」

 ハズレが少年たちに教える。

「――――!!」

 飛び散る唾液を捌いていたロードの手が止まる。何とトカシボウが両腕を上げたのだ。これは攻撃の合図。

「不味い! 胃液が来る! 溶かされるぞ! 逃げろ!」

「「「――――!!」」」

 エミさんと一緒に逃げ出す少年たち。そして構えられた両腕をお腹に押し付けて妖怪液を飛ばして来る。

「ボウアアアアアアアアア!!」

(オレは避けられても、後ろの子供たちが避けられない。ここは一か八か最初の一撃の破裂覚悟で胃液ごと両断するしか――――)

 そう思っていた矢先。

「水霊の抱擁!」

 スゥーーーーっと大量の胃酸が水に抱擁された。

「――――スワン!」

「間に合った!!」

 ロードは抱擁されたトカシボウの胃酸をよく見た。

(奴の胃液、水で薄まっているのか?)

 水に包まれながらも溶け出さない所を見るとロードはそう考えた。

「状況は大体わかった! ロードどうすればいい!」

 スワンが指示を仰ぐ。

「魔物の口を開けるからその隙に水を口の中へ流し込んでくれ!」

「わかった!」

 そして指示を出したロードはトカシボウの足元まで走りだす。そしてタンッと宙へ跳び剣を構える。

「トカシボウ! 俺はここだぁ!」

 ボゴアアアアアッと口を開いていくトカシボウ。

「今だスワン!!」

 ロードの指示のもと、スワンは両手を振り下げるしぐさをして井戸から持って来た大量の水をトカシボウの口の中へ入れていった。そしてお腹がブクンとパンパンになったところを、

「「行けーーロードォ!!」

 ハズレとスワンが叫んだ。

「最初の一撃!! 7メートルもの長剣になった青き剣がトカシボウを両断した。そして破裂したトカシボウから胃酸が飛び散るのだが、

 この時、
(胃液を水で薄めて破裂させてもいいようにしたか……これなら飛び散っても問題ないだろう)
 ハズレはそう思っていた。

「やったの?」

 スワンが呟き、

「おお、すげーなアンタたち!」

 井戸まで案内していた男も賞賛していた。

 そして霧散化していくトカシボウを唖然と見る、エミさんと少年たちだった。
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