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第五章 絆をはぐくんだ三人はいざ戦いへ

第230話 最後まで諦めない

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 バカデカテの手からスルンと抜け出したスワンが、民家の屋根に落ちる。

(うっ……使いたくはなかった……身体の水分を使って手から抜ける術……水霊の鱗)

 息もぜぇー―、ぜぇーーハァハァと言っている。

「何だ何をした!!」

 バカデカテが叫ぶ。

「奥の手だ」

 その時目の前がくらっとした。そして起こしたはずの身体が倒れ込む。

(とは言え脱水症状を引き起こし……もう動けない……水さえあれば……まだ何とかなるのに……)

 身体はガクガク、ビクンビクンと痙攣していた。

「陸に出た魚め……」

 バカデカテは手のひらに無数の突起物を出現させた。それはまさしく滑り止め。

「これなら抜け出せないだろう」

「はぁ……くう……」

 かろうじて見るスワン。

(意識が、めまいが、気持ち悪い)
(辛い、苦しい、ここまで?)
(結局わたしはここまでなのか)
 
「お前の希望もここまでだ!! 望みを捨てろ!!」

(もうダメだわたしじゃ誰も救えない)

 その時、右腕の腕輪を見る。黄色い指輪と赤い指輪。

「ロード……ハズレ」

 二人の姿を思い出す。

「分かった。わたし進むよこの道を最後まで……」

 スワンのいる屋根の高さまで跳んで来たバカデカテ。

「お前の次はアイツらだぁ!! 問題解決!!」

 スワンの両サイドから巨大な手で挟み込もうとしてくるが……

 キッと表情を変えるスワン。ダッと走り出しバカデカテに飛び込んで行く。

「最後まで進む!! 諦めない道を!!」

 バカデカテは計算外なことにスワンにしがみ掴まれた。

「うああああああ!!」

 そのまま一緒に落ちていく。

 この時、
(こいつ最後の力であえて前に突っ込んできた!?)
 バカデカテはそう考えた。

「下は……井戸!?」

 バカデカテとスワンは井戸の屋根に突っ込んだ。そして屋根が破壊されていく。

「おあああ!!」「うわあああ!!」

 衝突時には声を上げた。

 ズボンと二人して井戸の中に入った。

 井戸の中をガクンとぶら下がるバカデカテ。

 スワンは水の上にバシャッと落ちて行った。

「水!!」

 その時、
(くっダメだ手が井戸に詰まって動かない。どうすることも出来ん。なんてことだ)
(余計な問題を増やしてくれたな女)
 バカデカテは打開策を探していた。

 スワンは落ちた場所の水を両手ですくい飲んで行く。

 ゴクゴクゴクと水をすする。

「…………」

 バカデカテは黙って見ていた。

 そして満身創痍だったはずのスワンが立ち上がりバカデカテの方へ向きこう言う。

「わたしの勝ちだ」

 バッと口から垂れる水を手の甲で拭き取る。

「水霊の手」

 三つの水の腕がぶら下がるバカデカテン向かって行く。

「ふざけるな!! 手撃――悪い手癖!!」

 口の中からヒトデ型の手のような舌が伸びてくる。

 その時、バカデカテは水に捕らわれた。

「――――なっ!?」

 対してスワンは舌の手に喉を掴まれた。

 この時、
(オレにも奥の手はある!!)
(苦しいだろう苦しいだろう!!)
(さあ、この鬱陶しい水を解け!!)
 バカデカテは考えていた。

「う……ううぅ……」

 息を止められるバカデカテ。
(人間と魔物では息を止めらている時間は違う。この勝負、俺の勝ちだ)
(さぁ、水を解け)
 首を絞める手はそのままにスワンを宙に浮かせた。

「うう……」

「!!」

 スワンが右手をぎゅっと締める。

「――――ぐごぼぼ!?」

 水の締め付けがきつくなる。

「う……」

 それでも首を絞める舌は揺るがない。

 その時、
(こいつ……オレと勝負するというのか!?)
(何故諦めんのだこの女は)
(苦しくないのか、怖くないのか)
(何度も何度も愚かにも抗きおって……)
(もういい……こいつは脅威、我らの、魔王様の)
(捕えるのはやめだ)
 バカデカテはこう考え、

(――殺す!!)

「うっ……うっ……」

 と足をバタバタさせるスワン。

 舌の指が口の中へ侵入した来た。

(苦しい、痛い、怖い、辛い)
(でも負けたくない)
(諦めたくない)
 スワンは手をパーからグーにした。
 
「――――ゴボボボボボ!?」

 それだけでバカデカテは水によって圧殺された。

 口から血反吐を吐き、スワンを舌から解放する。

 バシャンと水面の下に降り立ったスワンは腰を下ろしてバカデカテを見る。

 ブランと舌を下げ、力なくぶら下がっている。そして霧散化が始まった。

「はぁ……はぁ……やった……ロード、ハズレ、わたし勝ったよ。生きて帰るから……」

 スワンは大の字になって井戸の中に寝そべった。

「全部終わったら褒め殺して……」

 スワンはバカデカテとの一騎打ちに勝利した。
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