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第四章 酒場の情報から精霊石や馬を手に入れて旅をする

第186話 挑発してみた

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 ロングソード、ランス、アックスの攻撃をもろに食らったフレアザーズは屋根の上で息を整えていた。

「お前は魔王には会えない、何故なオレがここで斬るからだ」

 屋根の上にいるフレアザーズに竜封じの剣をつきつけるロード。

「キミたち!! そんな道の真ん中で固まっているとフレアザーズのいい的だ!! すぐにその場から離れて隠れろ!!」

 ハズレが的確な指示を出した。

「た、確かに固まるのは不味い」「隠れないと――」「また炎を吐かれちゃかなわんからな」

 ロングソード、ランス、アックスを持っていた魔物狩りはそれぞれの場所へと隠れに行った。

 しかし、彼らの中心にいたロードは動かなかった。

(ロード何してる!? そんなところに居たら炎のいい的だ! フレアザーズを前にして射すくめられたか!?)

 ハズレがロードの方へ走り抜けようとした時、気が付いた。

(違う、ロードの奴一対一でフレアザーズと戦う気だ!?)

 ハズレの読みは正しかった。現にロードはその場で竜封じの剣を構えいつでも立ち回れるように足に力を蓄えている。

「弓使いの人たち!! フレアザーズは屋根の上だ狙ってくれ!!」

 指示を出せるのはいいが、その指示を敵であるフレアザーズまで聞いてしまっているので、屋根の死角部分へと隠れられて弓使いが放つ矢をやり過ごされていく。

「どうした来ないのか? フレアザーズそんな逃げ腰ではオレは倒せないぞ!」

 ロードは挑発して屋根の上で休んでいるフレアザーズを引きずりだした。

「何だと人間!! 今俺になんて言った!?」

 フレアザーズはロードの挑発に乗ってしまった。

「放て!!」

 すかさず弓使いの魔物狩り達が出て来たフレアザーズを狙って矢を放つ。

「――――くっううぅ!?」

 顔をひょこっと出していた時、数本の矢が顔を掠め、一本は顎に突き刺さった。

「おのれよくも!!」

 カエルのような手で刺さった矢を一本引き抜いた。その傷からは魔物が霧散して消える時の煙がシュウシュウ噴き出していた。

「酒を持って来さえこれば命は助けてやるというのに……死に急ぎたいらしいな!!」

 大きな口から宣言される皆殺しの予告。その場に居るシルバー勢の魔物狩り達を震え上がらせるほど恐ろしい叫びだった。その声に恐怖しなかったのはロードとハズレだけだった。


「こ、殺される……」「うわああ、逃げないと……」「違う酒だ酒を持って来さえすればいいんだ」

 魔物狩りの皆が戸惑う。

「落ち着くんだ皆、キミ達にはプラチナ勢のオレが付いている!! 慎重に対処すれば誰も傷つかずにアイツを倒して生還できる!! 皆生き残れるんだ!! 問題は早く片付けないともう片方のフレアザーズがやって来るってことだ!!」

「も、もう片方……」「あんなに恐ろしいヤツがもう一体」「勝てるの? あんな魔物にわたしたちが……」

 もはや魔物狩り達に先ほどの勢いはなくなっていた。この場をどう切り抜けるかで頭がいっぱいだったようだ。

(完全に戦意喪失か――――)
 ハズレが思ったその時だった。

「勇者ロード!! 皆その雄姿を見ろ!!」

 竜封じの剣を携えたロードは走りだした。しかも人間離れした跳躍を見せ一気にフレアザーズのいる二階建ての民家の屋根へと到達した。

「――――お前!? こんなところまで一瞬で、何なんださっきから、スピードといい、ジャンプ力といい、お前は何なんだ!!」

「さっきから言っているだろ! 勇者ロードだと!」

 屋根の端まで下がったフレアザーズはロードから距離を取るため別の屋根の上へと跳び上がった。しかし、屋根に跳び移ったはいいが、ロードに先を越されていた。

「遅いな……」

 ロードがポツリと呟く。

「く、くっそーーーーーー!!」

 フレアザーズが炎を吐いた。ロード殆どゼロ距離で喰らわせた。はずだった。

 しかし、ロードはそのゼロ距離にも近いファイアーブレスを前にスライディングする形で躱していった。

 ここでフレアザーズは燃えているであろうロードの姿を確認する形で目を泳がせていた。勝利を確信していたのだ。

 しかし、とうのロードはフレアザーズの背後に回り必殺の一撃、光の剣で振り切ろうとしていた。

 その決着の瞬間だった。何か重たいものがロードの身体全身にぶち当たった。

(――うぐっ! 何だこれは!? 酒か!?)

 ぶつかって来た物の正体は満タンになった酒の樽だった。

「アレ? お兄ちゃん!?」

「何してる弟……もう少しで切り殺されるところだったぞ」

「えっ! アレ? 燃えてるはずじゃあ……」

 炎の勢いが消えると虚空を眺めるフレアザーズ。ロードの姿はないと知った。

 屋根の上から下に落とされたロードは受け身の態勢で何とか持ちこたえた。

「来やがったか」

 通りの中央に立っていたハズレが言って来た。

「酒はどうした人間ども!」

 酒の入った樽を数個、身体に纏わせたフレアザーズの兄であろう魔物が言って来た。

「二頭一対か……」

 助けに入って来たもう片方のフレアザーズのおかげで、ロードたちの事態は急変した。
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