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第四章 酒場の情報から精霊石や馬を手に入れて旅をする

第170話 勝負後の帰還

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 どこかの湖の前。
 ロードとディースの勝負から2日が経とうとしていた。

「はぁ、あと1分で、はぁ、オレの勝ちだなぁ」

 ロードはこちらの異世界用に調整した懐中時計を見やる。

「ヒ、ヒヒーン……」

 2日間動きっ詰めで、もはまともに鳴く元気もないディホース。

「50秒前……」

 それでも走って振り落とそうとする。

「40秒前……」

 強引な揺れから落馬を狙ってたりする。

「30秒前……」

 グルグルと自分の尻尾を追うように回転する。

「20秒前……」

 ジャンプして木の枝に到達し、ダメージを蓄積させる。

「10秒前」

 しかし何もかもがもう遅すぎた。

「0」

 長い長い2日間の勝負が今終わった。

「午前0時、はぁ、オレの勝ちだ、はぁ、ディホース」

 その宣告と同時に体力の限界だったのであろうロードは気絶した。

 そして、

 バシャリと顔に何かが掛けられた。

 それは湖の水らしく気絶していたロードの目は一気に覚めた。

「!? ――夜中か今何時だ!?」

 時計の針は0時30分ごろを示していた。

「ヒヒ―ン……」

「? 何だって? ディホース」

「ヒヒ―ン」

「オレの勝ちだって?」

 黒馬ディホースがロードの隣に身体を倒した。

「そうか、オレは勝ったのか……」

 湖の生水をそのまま飲む。ロードはどこか生き返った感覚を覚えた。

「ディホースも動きっぱなしで疲れたろ……飲むと良い」

 まるで主に従うように水を飲むディホース。

「レースに参加してくれるか?」

「ヒヒーン」

「そうか、ありがとう」

 ディホースの身体に跨るロード。

「さて、ここがどこだかわかるか?」

「ヒヒ―ン」

「何!? ヤマダシオから30キロも離れた湖のほとりだと!?」

「ヒヒ―ン」

「どうするかって帰るに決まっているだろう? まだ走れるかディホース」

「ヒヒ―ン」

「お任せくださいご主人様って、キャラ変わってないか?」

 ディホースはすっかりロードになついていた。

「じゃあ帰ろう、道はわかるのか?」

「ヒヒ―ン」

「通ってきた位置を引き返すだけか……わかったその言葉を信じてみよう」

「ヒヒ―ン」

「水分補給はちゃんとしたか? お腹は空いていないか? 体力は持ちそうか?」

「ヒヒ―ン、ヒヒ―ン、ヒヒ―ン」

「そうか体力の方に限界があるか……それなら」

 ロードは自分の生命力をディホースに与えだした。そうしてフラフラのグラグラの限界まで与えてディホースの背中に身を預ける。

「ど、どうだ? 力は戻ったか?」

「ヒヒ―ン」

「何をしたかだって? お前にすべてを託したんだ。さぁお前が逃げ出したあの丘に戻るとしよう」

「ヒヒ―ン」

「さぁ、走ってくれディホース」

 ディホースはロードを乗せたまま、落馬しないように十分配慮しながら走り出した。


 ▼ ▼ ▼


 ヤマダシオ・近隣の丘の上。
 とうとう午前10時を回ろうとしていた。
 スワンとハズレは当初、消えたロードとディホースの捜索に当たっていたが、迷子になりそうだったのでその方法は取らず、元いた場所で信じて待つことにした。入れ違いにもならないように待っていた。
 今日も今日とてスワンたちはロードたちに帰りを待っていた。

「もうどこまで行ったの? 今日は馬乗レースの開催日だっていうのに……」

「夜中ずっと待っていたが帰ってくる気配がなかったぞ。レース受付け時間が午後12時まであと2時間しかないもうあきらめた方が……」

「そうね、残念だけど、レースは諦めるしかないか……?」

「じゃあハズレはここで待っていて……私は探してくるから……」

「探してくるって当てはあるのかい?」

「昨日話したでしょ、わたしは精霊の術使いいくらでも探しようはある」

「オレが初め蹄鉄の後を追おうとした時は止めたくせに……」

「だってすぐ帰ってくると思って――――」

「どうしたんだい?」

「――――ディホースが帰って来た!?」

 スワンの指を差した方向からディホースが小走りでやって来るのが見えた。その背中には眠りについていたロードの姿があった。

「ギリギリ帰って来たみたいだな……」

「ホントギリギリすぎる」

 とにかくレース開始まで間に合いそうなことにスワンたちは喜んだ。
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