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第三章 素晴らしき飲料店で働き始めます

第103話 盗人おサルさんの処遇

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 大男の屋敷。

 ロードと大男は朝食をとっていた。

「ほう旅を始めたばかりで右も左も分からないと? それは苦労しそうな話ですな」

「いえ、自分でこの道を進むと決めたので、苦労は覚悟しています」

 バナナの皮を剥いて召し上がるところだった。

「お若いのに達観しておられる方だ。いや私も若ければもう少し無理が出来たんだが……50にもなると足腰が……」

「何かお困りごとでもあるんですか?」

「いやなに、ちょっと最近庭の木の果物が取りにくいという話なだけですよ」

「それは大変だな、はしごとか使っても届かないのですか?」

「ええ、木もどんどん大きく成長していきますからね~~」

「それは本当に困った話だ」

 欠片ほどになったバナナを口の中へ放り込む。


 ▼ ▼ ▼


 屋敷の玄関前。

 朝食を済ませた二人は、何やら話し込んでいた。

「ささ、お土産の品もお持ちください」

 オーバーオールの大男はフルーツがぎっしり詰まった紙袋を手渡してくる。

「いいですよ。こんなに親切にしていただかなくても……」

 ロードは遠慮しているのだが、

「勘違いとはいえフルーツ泥棒言って、あなた様の名誉を傷つけてしまった。これはそのお詫びの印」

「そこまで言われたら断り切れないですね」

 観念して押し付けられた果物入りの紙袋を受け取った。

「……で聞きたいことがあるんですけど……?」

「はい、何でしょう?」

 ロードはコンパスを片手に方位を確かめながら訊く。

「北西の方の大きなキラキラした山に何があるか知りませんか?」

「大きな山、、、ああ! それでしたらフルケット山のことですな。丁度祭り時の時期なんですよ。キラキラしていたのはそのせいかと……」

「フルケット村、わかりましたありが――」

 お別れの挨拶をしようとした時だった。カランカランと木板のトラップに引っ掛かる音がした。

「またあのサルか」

「これ荷物頼みます――」

 その場から全速力で走り去った。

「あっちょっ、ロードさん!」

 あっという間に門を出てサルの姿を確認する。

(――いた。片手でフルーツかじりながら逃げていく)

 ロードは木の枝の上を悠々自適に飛び移っていたサルについて行く。彼もまた木の枝から枝へと飛び移っていく。

(そんなにスピードは早くはないな。ストンヒューの衛兵に比べればの話だけど……)

 そんなことを思い浮かべつつサルへと追いついて行った。

(捕まえたらどうなるんだろう……オレが感謝されるとしてサルの方はどうなる)

「ウキキ!?」

「抵抗するな、悪いようにはしないから……」

 あっさりとサルを捕まえることが出来た。

「さてと、盗人のおサルさん少しお話でもしようじゃないか……」

 彼はゼンワ語という人と動物に伝わる非常に珍しい言葉を有していた。その声におサルさんは耳を傾けた。

 数分後、ロードはサルを連れてオーバーオールの大男の前に戻って来た。

「おお、サルの盗人を捕まえて来るなんて随分、足の速いことで……コラ、このサルめどうしてくれようか」

 パキポキと手の骨を鳴らす大男。

「ちょっと待ったおじさん、こいつ本当は盗みがしたくてこんなことをしたわけじゃないんだってさ」

「ん? 兄さんそいつの言葉がわかるのかい?」

「いや、分からないけど、そんな気がするんだ……飢えを凌ごうと毎日毎日、果物を盗みに来ては帰るだけ、でもちゃんとおじさんには悪いことしてるなぁ~~って思っているんだ。そういう生活が身に染みているんだと思う」

「では、兄さんどうしろと言うんだい?」

「こいつを飼ってやってくれないだろうか……?」

「――飼うだって!?」

「そうさ、おじさんも朝ごはんの時に言ってただろう。最近、木に果物が取れそうで取れない所に実って困っているって……そういう仕事を任せて、おじさんはご褒美として果物を提供する。実にウィンウィンな関係になると思うんだけど……」

「ふむ……」

「ウキキ……」

 大男とおサルさんの視線が合う。

 その時、おサルさんが持っていたかじりかけの果物を、大男に返上しようとしていた。

「わかった。ちゃんとオレの言うことを聞くんだぞ……」

 ロードがおサルさんにゼンワ語を使って伝えると、

「ウキキ、ウキキ、ウッキッキーー」

 とその場で踊りだすおサルさん。

「では、オレはこれで行きます。どうかこのおサルさんと協力関係になってやってください。よいしょっと……」

 荷物を背負い、果物の入った紙袋を持ち上げながら言った。

「わかりました。この度は盗人事件の方も、問題を片付けてくれてありがとうございました」

「ではオレはこれで出発します。お元気で……それとありがとうございました」

「はい」

「ウキキーー」

 それでお別れを済ませた。ロードは門を通り抜け森へと戻っていく。

「さてと、ではおサルさん。まずはお前に名前を付けてやらないとなぁ」

「ウキキーー?」

「何がいいかなぁ~~? ! あっ! そうださっきの旅人さんの名前を頂くとしよう」

「ウキキーー!」

「いいか? 今日からお前はロードだ。木に実る果物取り頑張ってもらうからな」

「ウキキーー!」

 ビシッと親指を立てるおサルさんだった。
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