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第二章 異なる世界からやって来た最強の魔王

第95話 悪しき者と戦う世界の強さ

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 とうとうこの扉まで来た。
 いつも使っていた宮殿から外へ出るための大きな扉だ。
 両側に立つ兵士が扉を開いてくれる。
 前を行く王子に続いて宮殿から出るため足を進めた。
 
(もうこのストンヒュー宮殿とはお別れだ)
(さよなら、今までありがとう)
(そして……)
 
(ここからは新しい道だ)
 
 
 ▼ ▼ ▼
 
 
 ストンヒュー宮殿・正面広場。
 
 
『『『わあああああああああああ!!』』』
 外に出ると大勢の人と動物たちの歓声が沸いた。
 
「――!?」
 
「おっ! 来たぞ英雄様だ」

 歴史家さんの第一声から始まった。
 
 外に出て早速取り囲まれる。
 
「おはよう!」「握手、握手」「おおっいい服を着ておるな」

 大臣たちからの挨拶。
 
「お、おはよう皆さん……おはよう」
 
「今までありがとう」「お世話になったよ」「寂しくなるな」
 
「こちらこそ、ありがとう」
 
 庭師のお爺さんに握手を求められたので、手を握ってあげた。
 
「うわっナマケモノさんたち……」
 
 足元にはたくさんのナマケモノがいた、危うく踏みそうになった。
 
「宮殿にいないと思ったら外にいたのか……」

「「「ナマ~~~~」」」
 
「ああ、はいはい握手ね。握手……」
 
 順番に握手をしてあげた。
 
 次によく勉強を見てあげた大臣たちの子供たちとお別れの挨拶をした。
 
「たくさん、ありがとう……」

 大臣の娘がそう言っていた。
 
「どういたしまして」
 
 囲んでいた皆が突然と道を開いた。
 
「おおロード! 待って居ったぞ!」
 
「王様」
 
 手を引かれて連れ去られる。
 
「ロード来てくれ! 君に見せたいものがある」
 
「そういえばここ数日姿を見てませんでしたが……」
 
「うむ……どうしても手が離せないことがあったのでな。だがどうにか間に合った」
 
「王様……今までお世話になりました」
 
「お世話をしていたのは使用人の、君の方だったような気もするな」
 
「……そうでしたね。でも、身寄りのないオレが今日まで生きて来られたのも、道を踏み外すことが無かったのもここがあったからこそです」
 
「ロードにとってここは大切な場所になったかな?」
 
「……ええまぁ」
 
「いや、愚問だった……ここを取り戻すために皆を戦いへと動かしたのだ。ロードがこの国を大切と思っていることなど聞くまでもないな。本当に子供というのは……大人には出せない答えをいとも簡単に出してくれる」
 
 手を引かれて引かれて、どんどん進む。
 
「済まないが道を開けてくれるか」
 
 王様に連れて来られた場所に着いた。
 そこには、何か大きな物が赤い布に隠されていた。
 周囲の皆もその何かが気になって待っていたみたいだった。
 
「これもまた君が教えてくれたものだ」
 
 王様が赤い布を引っ張ってその中の物を見せてくれた。
 
「――!?」
 
 『『『おおぉぉぉ!!』』』
 
 周囲がソレを見て騒然とした。
 
 見せられたのは“大きな絵”だった。
 それも“どこかで見たことあるような戦い”を描いた絵だった。
 
「タイトルは悪しき者と戦う世界の強さ……この数日間、寝る間も惜しみ部屋に篭って描いていたのだ。どうしても君が旅立つ前に見せたくてな」
 
「この絵をずっと描いて……?」
 
 その絵をよく見てみる。
 黒い宮殿に多くの黒い鬼と大きな黒い竜、そして魔王アグロ―ニの姿が描かれていた。
 それに立ち向かうように、多くの兵士たちと赤い竜の姿が描かれていた。
 
 そして、見覚えのある使用人服を着た男が真ん中に堂々と描かれている。
 
(これは~~まさか)
 
「これはロードですか?」
 
 一緒についてきた王子が聞いていた。
 
「我ながら素晴らしい出来栄えだ。この絵は後世にまで残すぞ」
 
「す、凄いですね。絵本の絵とは比べ物にならない」
 
 その画力は画家にも匹敵し、忠実にあの日を再現できていた。
 
「少しは喜んだらどうだ? 君はストンヒューの歴史に名を刻む偉業を成し遂げたんだ」
 
「そうは言っても……」
(は、恥ずかしいな……)
(こ、これオレじゃないか)
(こんなカッコつけたような……ああ、見てられない)
 
「この絵をあの部屋に飾ろうとおもうのだが、以前キミの言っていたものはここにあるかな?」
 
 以前にした助言の事だろうとすぐに気が付いた。
 衛兵たちの表情は一人一人、しっかりと魔物たちを見ていた。
 そして、魔王たちにも乗り越えるべき壁として描かれている。
 
「……はい、あります。とても強そうです」
 
 聞いた王様は満足そうにしていた。
 
「これが私の見たこの国の強さだった。ロード。ストンヒュー国王として改めてこの国を取り戻してくれたことに礼を言う。ありがとう」
 
「そのセリフ、何度も聞きましたよ」
 
「覚えるほどに言ったか……ははは、では、もう一つ覚えておきなさい……例え二度と戻れない旅立ったとしてもここには君のいた証はちゃんと残る」
 
 絵を見ながら語っている。
 
「例えどこへ行っても、君がこの世界の民だったことは残るのだ……」
 
「はい」
 
 そう言われると、この絵もいいモノに思えてきた。
 
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