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第二章 異なる世界からやって来た最強の魔王

第70話 迷走

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 魔王と決着を付けなければならない日になった。
 
 
 林の中・川。
 
 
 ロードは秘宝玉を川の水と布を使って、全力で磨き上げていた。
 
「全然、反応ないな」
 
「ハァ、ハァ、、、磨き、上げれば使えるんじゃ、なかったのか?」
 
 息が途切れ途切れになるまで磨いていた。
 
「迷走してるやもしれん。少し頭を冷やしてみろ」
 
「ハァ、ハァ、あ、ああ……」
 
 川で頭を冷やすために洗い流した。
 ついでに鞄にある布を水で濡らし、身体の汗を拭うことにした。
 岩に腰掛け上半身を布で拭っていく。
 
「そういえばどうだった? 絵本は……」
 
 水を飲んでいた竜に聞いた。
 
「ああ、あれか……」
「内容的には我と重なる部分があり少々キツかったが……」
 
(言うと思った)
 
「終わり方は良かった。全体を通してみれば良い作品だったといえよう」
 
「アカは話の内容を重点に評価するのか」
 
「いや、絵に関して言いえばあまり上手いとは思えなかったから内容に触れただけだ」
 
「……やっぱりおかしな絵で読みにくかったか?」
 
「逆だ。あまりに普通の絵で面白みに欠けていた」
 
「普通の絵? はじめて言われたな……ああそうか! アカは別の世界から来たからもっとおかしな景色を知っているのか」
 
「そうだ。それに比べると、あの絵本に独自性は感じられなかった」
 
(そうか、あの絵本じゃ物足りなくなるくらい世界はあるんだなぁ……)
「ありがとう、面白い感想だったよ」
 
 身体の汗を拭い終わらせて、綺麗な替えの服を着る。
 
「……にしてもさ」
 
「ん?」
 
「別の世界はやっぱり憧れるな……」
 
「もし行ったとして何をするというんだ?」
 
「なんでもさ……凄い景色を見て、不思議なものを食べて、面白い人に出会って、色んな遊びをして、楽しい時間を過ごす、何でも出来る。そういう旅がしたいんだ」
 
 
「……大層、ここで窮屈な思いをしているようだな?」
 
 
「別にこの世界の暮らしに不満はないさ。ないけど、別の世界があるなら、行ってみたいんだ」
 
「なるほど、あの絵本が好きな理由も頷ける。では、いっそあの本の主人公のように勇者になって世界を旅するのも一つの道かもしれないぞ……」
 
「どういうことだ?」
 
「あの絵本、我のように多くの世界を渡った者には現実味があった。いくつもある世界には幾人もの悪なる物がはびこっているのは事実。あの絵本の主人公が悪なる物たちを倒すために世界を渡る旅に出たように、お前も勇者になって世界を渡り悪なる物たちを倒せばいい。そうすれば、冒険の旅とやらにも出る願いも叶うのではないか?」
 
(!?)
 
 鞄の中を使った布をしまい込んでいると、絵本が目に入った。
 
(ただ旅をするだけじゃなく)
(オレがこの絵本の主人公のような勇者に……?)
(そんなこと考え……いや、考えてた)
(そのために強くなろうとしてたんだっけ……)
(悪い竜がここに来て、オレを連れ出してもらうときのために)
(でも、それは子供の頃だ)
 
「我がこの世界に来たのも数奇な運命かもしれないな」
 
「運命?」
 
「もしかしたら我はお前をここから連れ出すためにここに……」
 
「けど……旅へ出たらもうここには戻ってこられないんだろ? 皆に2度と会えなくなるのは嫌だ」
(そう、嫌だ)
 
「ははは、そういう話だったな、すまない忘れてくれ……」
 
(…………)
 
「それより今は秘宝玉の使い方だ……どう探す?」
 
 片手で透明な玉を弄びながら考える。
 
「…………少し一人で考えてみたい」
 
 岩から降りて、鞄が邪魔になりそうなので渡しておく。
 
「わかった。では我も何かいい案が浮かんだら報せよう」
 
 
 ▼ ▼ ▼
 
 
 一人で色々試してみることにした。
 
 何となく林の中を全力で走ってみた。
 何となく高い木の天辺まで登ってみた。
 何となく両手で空に向かって秘宝玉を掲げてみた。
 何となく意味の分からない言葉で秘宝玉に呪文を唱えてみた。
 何となく川の上を走ってみようと思ったが、走れなくてずぶ濡れになる。
 
 林の中を歩きながらまた考える。
 
(何をしても反応なしか……)
(迷走してるな~~)
 
(見れば見るほど、ただのガラス玉に見えてくるな)
 
 秘宝玉を目の前にまで持ってきて透明な玉の中を覗き込む。
 
(何にもないか……)
 
〔ヒュオオオオオオオオ……〕
 
 その時、前から風が吹き抜けた。
 
(ん?)
 
 秘宝玉を覗き込んでいるとその向こうに洞窟を見つけた。
 どうやら風が吹いてきたのはそこからだったようだ。
 洞窟が気になってので近づいていく。
 
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