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第二章 異なる世界からやって来た最強の魔王

第63話 今日の夜からでは時間がない

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 その日、魔王にストンヒュー王国が乗っ取られてしまった。
 
 ストンヒュー・国外の森。

 時刻は夜の19時過ぎ。
 森には王国から避難してきた民たちが、人も動物も混在になって集まっている。
 
 森の広い場所では、宮殿の玉座の間のいる時ように整列している者たちがいる。
 王様や大臣たちは状況を整理するために陣取っている。
 その場所に二羽の鳥が報告するために戻ってくる。
 
「黒い竜の様子はどうなっている?」
 
 パレロットが尋ねる。

「はっ! 宮殿の上空を徘徊する竜にこちらへ向かってくる様子はないようです」
「お話の通り明日の夜以降に動きだすと見て良いかと……」
 
「王国の様子はどうなっている?」
 
「それに関しましては、何と言えばよろしいか……」
「ストンヒュー王国中に黒い揺らめきが見えました。まるで何かの生き物のような揺らめきが……」
 
「生き物とは逃げ遅れた民の事か?」
 
「いえ、民とは違います。不気味で異形な見た目をしていました」
「そう、絵本で言うと黒い鬼のような者が国中のあちこちにいました」
 
(黒い鬼? 魔王とは違うのか?)
 
「――誰かこの発言に心当たりのある者はいないか?」
 
「いいか?」
 
「えっ? あ、ああ、王様、アカが何か知っているみたいです」

 アカがロードに尋ねる。

「聞かせてもらおう」
 
 もうすでにアカについての話は終わっていたので、誰も竜がいることに疑問はもたない。
 
「黒い鬼というのは、おそらく魔王の配下のことだ……」
 
「配下? 一体どこからそんな者たちが現れたのだ……?」
 
「奴の麻鬼刀という刀だ。アレは、我の……竜の力を吸収し自分の思い通りになる竜を作り出した。しかし、あの竜に吸収された力の全てが使われたわけではない。残りの力をその黒い鬼とやらを作り出すために振り分けたのだ。自分の思い通りに動く配下を国中に配置するためにな」
 
「乗っ取った王国を取り返されないようにするための措置か」
 
「ありがとうアカ殿……それで黒い鬼とやらはどれほどいるんだ?」
 
「それは~~、100や200ではないです」「お、おそらく一万はいるかと……」

 鳥の衛兵たちが語る。
 
「い、一万だと!?」
 
 その場に居るアカ以外の誰もが、ざわつき始めた。
 
(そ、そんなに……)
 
「…………わかった。他に何かあるか?」
 
「報告は以上です」「では引き続き監視をしてまいります」
 
「頼む」
 
 二羽の鳥の衛兵は空へはばたいて行った。
 そして、ざわついていた大臣たちが静まって会議を始める。
 
「ま、まさか敵がストンヒュー兵団の10倍以上の数になっているとは……」
 
 大臣が頭を悩ます。

「我ら、レオリカン兵団を含めてたとしても5倍の兵力差か……」

 カリフ王が呟く。
 
「いざ、戦ったとしても向こうにはアカを凌ぐ竜までいる」

 シャルンスが冷静な分析をする。
 
「それなら、こっちには竜殺しの剣があるパン」

 パンダの大臣が発言する。
 
「っ!!」
 
 皆がロードに目を向ける。
 
「敵はどこまでも空高く飛ぶ竜でしょう。ロードくんにどうしろというんです」
 
 孔雀の大臣が問題点を言う。

「それに魔王は剣を要求してきた。もう何かは察しがついているのだ。アカとの戦いのときのようはいかない、竜殺しの剣を警戒している」
 
 カリフ王が確信して答える。

「黒い鬼さえいなければ、魔王の隙も突けただろうが……」
 
 二人目の大臣が言う。

「要求の刻限は明日の夜でしたね」
 
 三人目の大臣が言う。

(ダ、ダメだ! 要求は呑んじゃいけない)
 
「け、剣を渡せばアカは絶対に倒されてしまいます。アカがいなくては……」
 
「ロード、それは皆わかっている。竜殺しの剣を渡しても意味はない。竜が居なくなったあと、魔王はこの世界を破壊するに違いないだろう」
 
 カリフ王が言う。

「それまでに決着を付けなくては、黒い竜を外の世界に放たれてしまうか……」
 
 パレロットが言う。
 
 しーーーーーーーーんと静まり返った。
 その場にいた者たちが黙り込んでいい案がないか考えている。
 
「待て、竜も黒い鬼も魔王の思い通りに動くだけ、奴さえ倒せれば全て終わるはずだ」
 
 アカが意見する。

「……そうは言うが、魔王へ辿り着く壁は厚い」

 カリフ王が言う。
 
「いえ何とかなります。あの竜の足止めぐらいならばアカにもできます。その隙に我々が黒い鬼たちのいる大通りから中央突破を試みて、宮殿に向かい魔王を倒すのです。大通りなら宮殿まで一直線です。全軍で突破をかければ足が止まることもありません」

 シャルンスが提案する。
 
「確かに、一点突破なら国中に散らばっている黒い鬼が一カ所に集まるまでには時間がかかニャ」
 
「はい、うまくいけば一時間もかからず魔王を打ち取れるでしょう」
 
「その魔王を誰が倒すのだ」
 
 カリフ王が発言する。

「それは私が……」
 
「――無理だ。相手は人間ではない、ましてや手を抜いてくれる竜でもない。先刻戦って分かったはずだ、我々がかかって敵うような奴ではない」
 
「カリフ王がそのような弱気な発言をするなんて」
 
「王子、忘れるなその作戦には多くの兵士の犠牲が出ることを……中央突破をかけ大通りを進む兵士たちは、両側から一万という黒い鬼の猛攻にあうことになる。魔王を倒すまでな。しかし、この作戦には退路が一本きりしかない。もし断たれれば兵士たちに逃げ場はなく、魔王が倒せなかったときは黒い鬼たちに囲まれて全滅だ。次に戦う機会さえ奪われてしう」
 
「!?」
 
「これは乗り込んだ先の宮殿でも同じことだ。黒い鬼たちが到着すれば、そこで魔王には届かなくなる」
 
「か、覚悟のうえです」
 
「王子、、、重要なのは可能性ではない。確実性だ。魔王を倒せる確実性があってこそこの作戦は成り立つ、我々にそれがない以上、無謀な挑戦にしかならない。いたずらに兵士の命を失うだけで、何も得られないでは意味がない」
 
「では、どうするというのです! 刻限は明日の夜ですよ」
 
「落ち着くのだ。カリフ王の言う通り私もこの作戦には賛同できない」
 
「父上まで……」
 
(魔王を倒す確実性……)
(そういえば……『この秘宝玉がお前たちの手にない限り、オレがこの世界で最強なのだ』)
(アレがあれば倒せるかもしれないってことか?)

ロードが思考を巡らせる。
 
「倒す方法ならあるかもしれません」
 
『『『――?』』』

 一同が疑問の表情を浮かべる。
 
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