上 下
53 / 743
第二章 異なる世界からやって来た最強の魔王

第53話 絵本の布教活動

しおりを挟む
「魔物……知ってる……絵本で見た」
 
「そうか言葉ぐらいは伝わっているか、魔物とは簡単に言えば世界の敵、悪を司る怪物たちのことだ」
 
「別の世界にはその魔物がいるのか?」
 
「そうだ。今この瞬間も我らの知らぬところで新たな苦しみと悲しみを生み出している」
 
「苦しみと悲しみ……例えば?」
 
「生き物が命を落とす」
 
「いくらなんでも……つ、作り話だよな?」
 
「おとぎ話に出てくるような竜の言葉には真実味がないか……?」
 
「いや、信じたくなかっただけだ。でも、だ、誰か何とかしてくれてるんだよな?」
 
「それは、世界による。それこそ無限の結末だ。誰かがなんとかできた世界もあれば……逆もまた……」
 
「逆もまた?」
 
「……誰にもどうにもできずに滅びた世界もある」
 
(……………………)
(……き、聞かない方が良かった)
 
 一気に気持ちが沈んでいってしまう。
 
「すまない。そのような顔をさせるつもりはなっかた」
 
「どんな顔だ。オレは平気さ」
 
 心配させてしまったので強がった。
 
「まぁ気に病むことはない。むしろ自分を誇るがいいその手で我とレオリカンの国を救って見せたのだ」
 
「偶然が重なっただけさオレじゃなくても……」
 
「いや、他の誰でもお前でなければきっとこのような結末にはならなかっただろう……こうして、全てが丸く収まったのはロードのおかげだ改めて礼を言おう」
 
「ロード顔がニヤついてるチュウ」
 
「褒められるのに慣れてないだけだ!」
 
「それだけチー」
 
「勝利の相手が竜だったのも、ある」
 
「大好きな絵本の主人公になった気分はどうチャア」
 
「オレは子供じゃないんだ! そんなことで喜ばない!」
 
「顔が笑ってるぞ……」

 ルロウが指摘する。
 
「先ほどから度々話に上がる絵本とはなんだ?」
 
「ん? ああ、絵本っていうのはこれのことだよ」
 
 鞄からいつもの愛読書を取り出して見せてあげた。
 
「レジェンド、オーブ、スライムゥ?」
 
「オレが子供の頃によく読んでいたんだ。160回ぐらい……」
 
「ほう、それほどの代物とは……」
 
 アカが興味深く絵本を見ていた。
 
「ふぅん、我を助けるヒントだったとも言っていたな?」
 
「読んでみるか? いやぜひ、読んでほしいな~~絶対名作だと思うんだ!!」
 
「名作か……では読ませてもらおう」
 
 絵本が見やすくなるように近くの岩の上に置いてあげる。
 
(こんな小さい物、読めるんだろうか)
 
 アカが爪の先を使って器用にページを捲っていた。
 
「読みを終わったら感想聞かせてほしいな」
 
「我とは、あまりいい話はできんと思うが……」
 
「なんでもいいさ。オレは誰とでも感想の話し合いをするのが好きなんだ。絵本は見る人によって印象が全然違うことがあるけど、それも楽しみ方の一つだ。そしてオレの知らない楽しみ方がまだまだあると思うから、それをアカが見つけてくれたらって期待してる」
 
「……それは、中途半端に読んでしまうと見抜かれてしまうな」
 
「そうだな、すぐバレるぞ」
 
「ははは、わかったお前の話に合わせられるようにじっくりと読もう。静かなのがいい、しばし我だけににしてはくれないか?」
 
「……わかった、皆行こう」
 
「ま~~た布教活動したチュウ」「まぁいつものことチー」「何でそんなに勧めるんだチャア?」
 
 ルロウに動くよう手で促し、ネズミたちを腕から肩に登らせて、一旦その場から離れることにした。
 
 
 ▼ ▼ ▼
 
 
 レオリカン王国をどこへ行くでもなく、ただただ歩いていると声をかけられた。
 
「ホホ!! ここにいたホ、竜殺しの剣士さん」
 
 どうやらゴリラの衛兵さんに探されていたらしい。
 
「竜殺しは縁起が悪そうだからやめてほしいな。普通に呼んでいいよ」
 
「悪かったホ……っと、カリフ王から剣士さんにお呼びがかかってるホ」
 
「カリフ王が? 何の用だって?」
 
「ストンヒューの王子様がもうすぐ来るんだホ。だから、、、悪かった竜の顛末を一緒に説明して欲しいんだホ」
 
「シャルンス王子が……わかった行くよ」
 
「じゃあ、ついて来るホ」
 
 彼を先頭にカリフ王の待つ場所まで向かう。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...