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第一章 冒険の日々に憧れる青年の生活

第12話 一度も勝てない理由

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「じゃあ四つ目の宮殿伝説『一度も勝負に勝ったことのない衛兵』これはね~~」
 
「その話パス」
 
「どしたん? 衛兵さんの話だよ」
 
「……………………」
 
 あまりしたい話じゃないのでだんまりを決め込む。
 じろじろと見つめてくるダラネーさんは無視する。
 顔を覗き込まれても、スープにフルーツをトッピングされてもありがたく食べて、無視する。
 
「ね~ね~『一度も勝ったことのない衛兵』って何?」
「ね~ね~ね~ね~」
 
(まぁ、べつに言ってもいいか……)
 
 そのとき、3匹のネズミが机の上をトトトトトトと走ってやって来た。
 
「間違いなくそれはロードのことチュウ」
 
「あっ……ハチュが来た」
 
「ロード、チーズはないチー?」
 
「チッカ……ないよ。カウンターに並んでもらってくれば」
 
「並ぶのめんどくさいチャア。ロード行ってきてチャア」
 
「……わっ! 凄い数だ。ツアとても並べないからこのパンで我慢してくれ」
 
 カウンターの方を見ると行く気が完全に削がれた。
 
「ねぇ、ねぇ、ネズミさん。ロード先輩って衛兵なの?」
 
「チュッチュッチュ! 悪いなお嬢さん。ロードの秘密をベラベラ話すほどチュウたちの関係は浅くないっチュウ」
 
 ちょっと嬉しいことを言われたロード。
 
「あら!? あれあら!? こーんなところにきのう食べ忘れたチーズちゃんがあったみたい。誰かこれであたしの助けをしてくれる親切なネズミさんはいないかな~~ん」
 
 懐から取り出したそれを見ると、何故そんなものを持っていたのか気になった。
 いや、使い道はここしかないけど。
 
「実はロードは幼い頃から強くなることに憧れて昔は衛兵に志願してたチュウ」
 
「毎日欠かさず鍛錬に行ってたチー。よく才能があるって褒められてたチー」
 
「けど、いざ仲間内で剣と剣の試合になると誰にも勝てず、負け続けた結果、衛兵への道を諦めてしまったチャア」
 
「……身内の忘れたい過去をこんな丁寧に暴露する奴らだとは思ってなかった」
 
 わかりやすくガッカリしてやった。
 
「はっ! しまったチュウ」「チーズの誘惑に抗えずロードとの何かを失ったチー」「オ、オレたちはなんて、なんてひでー、友達を裏切るなんてチャ、チャア~~~~」
 
(仕方ないな~~許してやろうか……)
 
 ほんとに後悔してるみたいだから言葉にせず許してやる。
 
「は~~~~い。ご褒美のチーズね~~」
 
「「「チーズ!!!!」」」
 
 捨てられるように放られたチーズに3匹が飛びついた。
 
「おい、チーズに負けるなよ……はぁ~、オレの負け癖が似たのかな~~」
 
「それでぇ? ロード先輩、衛兵のお話は本当?」
 
「…………ああ、白状するよ。一度も勝てないからやめたんだ。今日の午前も久しぶりにやってみたけど勝てなかったんだ」
 
「あはははははははは! ロード先輩って~~よわいんだ~~なっさけな~~い」
 
「この話パスしたい……」
 
 へこむロード。
 
「あははは、ごめんね。もしかして~~男のプライド的なの傷つけちゃった? いや~~本気で申し訳ございませんでした」
 
 大真面目に謝られた。意外な一面を知る。
 
「いいよ許す。悲しけど事実だしさ」
 
「やっぱ友達にするならロード先輩だ。ん~~~~でも、毎日身体鍛えてるのにそんなに勝てないものですか?」
 
「勝てない原因はなんとなくわかるんだ」
 
「なら、それを解決すればいいじゃないの? なにも兵士になる夢を諦めなくても……」
 
「オレが誰にも勝てないのはさ……剣が必ず止まってしまうからさ」
 
「剣が止まる?」
 
「ああ、例え練習でも、人に剣を向けるのも人に打ち込むことも、オレの身体は必ず拒むんだ。どんなに勝ちそうな瞬間が来ても、どれだけ稽古だと思い込んでも必ず手が剣が止まる。だから誰にも一度も勝てないんだ」
 
「それは、決定的な弱点ですね。なるほどなるほど」
 
「ホント弱い身体ださ」
 
「いいじゃないですか~~いや寧ろ普通のことでしょ……人に剣を絶対当てない。どんな強い兵士よりも凄いことだと私は思いますよ。うん……」
 
「そう? ありがとう、励ましてくれて」
 
「あ~~~~お世辞じゃないぞ~~本気で良いこといったのに~~」
 
 ダラネーはプンスカと怒っている。
 
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