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森へ5

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大木の影に隠れて、じっと待つ。
あんな大きな魔獣を、どうやって引き寄せるのかと思ったけど……
アストは、黒いマントを被って、体勢を低くして走っていた。

その姿は、遠目に見ると小さな魔獣にも見える。
森の端で見かけた魔物。この見上げるように大きな魔獣は、おそらく、あれを追って来たんだろう……

それを真似して、アストは囮になってくれているんだ。





どうして、あんなに大きな魔獣が……?
……ううん、今は。今は、あれを片付けることだけを考えよう。

ふいにアストが、腰の剣を抜いた。でも、抜き身じゃなくて……その剣が収まっている、鞘ごとを引き抜いて、ざりっと先端を地面にこすりつける。

あれだ。わたしはあそこに、魔獣が通った時に……
両手をあげて、きゅぅ……とエネルギーを込め始めた。
魔獣が、ざわりと毛を逆立てたような気がした。

「今だ!」

アストの声が木々の間を抜けてわたしへと届く。

掲げた両手を前に突き出して作り出したエネルギーの塊をぶつける。一匹目の魔獣に使った広範囲のものとは違って、小さくて重たくて、ぶつける場所が限定していないととてもわたしには使えない代物。

「はぁッ!」

でも今は、アストが走る速度を調節してくれている。
アストは、自分が合図を出した時に、魔獣がそこにいるように、と当たりをつけてあらかじめ場所を指してくれていた。
わたしはただ、その接点にぶつければいい!




轟音と共に魔獣が吠えて、倒れて……地面が揺れる。
あたりへと砂埃が巻き上がった。

「ハァっ、はっ、はっ……」

膝に手をあてて大きく息をする。汗が顎を伝っているのがわかった。
その汗を手の甲でごし、と拭って体を起こす。走ってるうちに、結構森の奥に来ちゃった……これ、どの辺りなんだろう。

辺りにはまだ黒い土煙が舞い上がっていて、視界が悪い。とりあえず、魔石を回収しなくちゃ……
あんな大きな魔獣から落ちたものだから、放っておくと邪気が撒かれてしまう。





ころり、と。転がった魔石が、地にぶつかって遠くなる。
それを節くれた指が摘み上げる。

……え。

アストは、まだ、ここにいるし、子爵が追い付いてきた気配もない。
それに、何より、あのブーツには見覚えがあって……


黒く撒きあがった粉塵の中から現れたのは、父だった。
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