93 / 96
森へ4
しおりを挟む
さっき見た時、こんな魔獣はいなかった。何でこんなに大きいのに気付かなかったの……!?
アストが剣を構え、視線を前に据えたままわたしに聞く。
「この大きさの魔獣はよく出るのか」
「み、見たことないわ……!大体さっきぐらいの大きさか、もう少し大きいぐらいで……!」
「……場所が悪いな」
そうだ、ここは結界の近くだから。もし、こんなのが体当たりしたら?今度こそどこかにほころびが出てしまうかもしれない。
アストは、つま先を迂回の方角にとって走り出した。
「少し気を逸らす。今のうちにさっきの魔石を浄化して、結界にあててくれ。少し魔力を込めれば補填出来るはずだ」
「わ、わかった!」
さっきの魔獣が落とした魔石に向き直る。アストの走っていった方向を見ながら、子爵が険しい声で言った。
「補填は僕が引き受ける。おそらくあれは、君の力が必要だろう」
「うん……!」
一瞬で浄化出来るようになったことも、彼にはもう告げてある。
跪いて手の内側に魔石を握り、邪気を内側に閉じ込めるようにして
目を瞑っていたけれど、わたしはたぶんまた光っていたんだと思う。
目を開けて、掌を開く。浄化された魔石を子爵へ託した。
「お願い!」
「わかった、終えたらすぐに後を追う」
託されてくれた子爵へと頷いて立ち上がる。
何となく視界がくらっと揺れたけど、気にしないふりをして、駆け出した。
アストが走っていった方向を追う。探さなくても、大きすぎる魔獣は眼でも気配でもすぐに分かった。さっきはどうして気付かなかったんだろう……!?
アストは……と思って周囲を見回すと、彼は木の上にいたみたいで、上からザッと降りて来た。
「複数の邪気が結びついて厄介になってる。間引き手が居ないだけでこうなるのは、妙だが」
「とりあえず、もう一度さっきみたいに……!」
「……いや」
アストは何も言わずに、親指で魔獣を示す。何だろう、と思って見ていると。
「えっ!?」
ふっ、と大きすぎる塊が消えた。
「な、なんで……!?」
驚きに目を見張っていると、少し離れた場所に、ふっ、とまた、音も立てずに出現する。
さっきも急に現れた気がしたけど、これなの……!?
これじゃ狙いが定まらない!
「一度これで足を捉えてみたが、すり抜けられた」
「それは?」
「捕縛用のアイテムだ。一応、魔力を帯びてない縄も掛けてはみたが、引きちぎられた」
アストは手を広げて、小さな加工済みの魔石を見せてくれた。教会で小鳥を捕まえていたものかしら。
「……一定距離で何かを追っている間なら消えないみたいだ」
アストはわたしの様子をじっと見る。魔獣の方も眺めてから、もう一度駆け出した。
「引き付けるから、合流地点で叩け」
「わかった……!」
アストが剣を構え、視線を前に据えたままわたしに聞く。
「この大きさの魔獣はよく出るのか」
「み、見たことないわ……!大体さっきぐらいの大きさか、もう少し大きいぐらいで……!」
「……場所が悪いな」
そうだ、ここは結界の近くだから。もし、こんなのが体当たりしたら?今度こそどこかにほころびが出てしまうかもしれない。
アストは、つま先を迂回の方角にとって走り出した。
「少し気を逸らす。今のうちにさっきの魔石を浄化して、結界にあててくれ。少し魔力を込めれば補填出来るはずだ」
「わ、わかった!」
さっきの魔獣が落とした魔石に向き直る。アストの走っていった方向を見ながら、子爵が険しい声で言った。
「補填は僕が引き受ける。おそらくあれは、君の力が必要だろう」
「うん……!」
一瞬で浄化出来るようになったことも、彼にはもう告げてある。
跪いて手の内側に魔石を握り、邪気を内側に閉じ込めるようにして
目を瞑っていたけれど、わたしはたぶんまた光っていたんだと思う。
目を開けて、掌を開く。浄化された魔石を子爵へ託した。
「お願い!」
「わかった、終えたらすぐに後を追う」
託されてくれた子爵へと頷いて立ち上がる。
何となく視界がくらっと揺れたけど、気にしないふりをして、駆け出した。
アストが走っていった方向を追う。探さなくても、大きすぎる魔獣は眼でも気配でもすぐに分かった。さっきはどうして気付かなかったんだろう……!?
アストは……と思って周囲を見回すと、彼は木の上にいたみたいで、上からザッと降りて来た。
「複数の邪気が結びついて厄介になってる。間引き手が居ないだけでこうなるのは、妙だが」
「とりあえず、もう一度さっきみたいに……!」
「……いや」
アストは何も言わずに、親指で魔獣を示す。何だろう、と思って見ていると。
「えっ!?」
ふっ、と大きすぎる塊が消えた。
「な、なんで……!?」
驚きに目を見張っていると、少し離れた場所に、ふっ、とまた、音も立てずに出現する。
さっきも急に現れた気がしたけど、これなの……!?
これじゃ狙いが定まらない!
「一度これで足を捉えてみたが、すり抜けられた」
「それは?」
「捕縛用のアイテムだ。一応、魔力を帯びてない縄も掛けてはみたが、引きちぎられた」
アストは手を広げて、小さな加工済みの魔石を見せてくれた。教会で小鳥を捕まえていたものかしら。
「……一定距離で何かを追っている間なら消えないみたいだ」
アストはわたしの様子をじっと見る。魔獣の方も眺めてから、もう一度駆け出した。
「引き付けるから、合流地点で叩け」
「わかった……!」
13
お気に入りに追加
7,025
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
私ではありませんから
三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」
はじめて書いた婚約破棄もの。
カクヨムでも公開しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】不協和音を奏で続ける二人の関係
つくも茄子
ファンタジー
留学から戻られた王太子からの突然の婚約破棄宣言をされた公爵令嬢。王太子は婚約者の悪事を告発する始末。賄賂?不正?一体何のことなのか周囲も理解できずに途方にくれる。冤罪だと静かに諭す公爵令嬢と激昂する王太子。相反する二人の仲は実は出会った当初からのものだった。王弟を父に帝国皇女を母に持つ血統書付きの公爵令嬢と成り上がりの側妃を母に持つ王太子。貴族然とした計算高く浪費家の婚約者と嫌悪する王太子は公爵令嬢の価値を理解できなかった。それは八年前も今も同じ。二人は互いに理解できない。何故そうなってしまったのか。婚約が白紙となった時、どのような結末がまっているのかは誰にも分からない。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
悲恋を気取った侯爵夫人の末路
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。
順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。
悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──?
カクヨムにも公開してます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる