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無題(別視点)
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髪を掴まれ腕を捕えられ引き摺られるようにしてリリアが連れて来られたのは、浄化の儀式を行っている塔だった。
螺旋状の階段を無理やり上らされて、頂上にある部屋へと突き飛ばされる。
「あぁ……っ!」
その勢いで倒れこんだリリアの前に、かつんと何かが投げ入れられた。
魔石だ。
浄化の済んでいないそれは、黒々とした邪気を放っている。
「今日のところは用意をしてやった。が、いずれ魔獣を間引くことも覚えよ」
外を背にした父は月光を浴びていて、その表情は闇に同化しているように見えない。リリアは、震える唇を開いた。
「どうして……?」
父親はその声を聞いて薄く笑んだようだったが、何を言うわけでもなく扉を閉じた。
「あ……」
よろ、と扉に縋りはしたが、そこはもう、リリアの力では開けられないように施錠の術を使われている。
両親の言うことを聞いていればよかったのに。
ぜんぶ、間違えていなかったはずなのに。
……それなのに、いつからか両親は、屋敷を空けるようになっていた。
しるべを失ったリリアの前に現れたのは、子爵だった。
子爵は両親が認めた人だから、
子爵の言うことを聞いていれば大丈夫なはずだったのに。
『怒らせて、追い出してしまうんだ
僕とあなたの婚約が締結出来たらまた呼び寄せればいいから……』
背いた罰がただ、リリアに向かったというのだろうか。
(ここ、何だか力が入りにくい……)
儀式の部屋は昼間の間、太陽の光が差し込まれないように分厚い布で窓を覆ってある。
それも、定刻になると外から勝手に覆われるよう、仕掛けが施してあるようだった。
儀式の仕方など知らなかった。
浄化前の魔石はただ禍々しく、傍に寄ることも躊躇われた。
それでも、これをこなせないならば次に何が待っているのか、リリアには分からない。
(確か、お姉さまは、こうして……)
一粒の魔石を前にして、ひざまずく。
両手を組んで、祈りを捧げるように、力を差し出した。
「……ぅ……」
魔力の注力には疲労が伴う。不慣れな行為と、蓄積した恐れからの逃避で、リリアの意識がゆっくりと沈み始めた。
バチンっ。
「……あ……!?」
座り込んだまま意識を落とそうとした刹那、体の表面を打たれたような痛みが襲った。
「なぁ、に……」
ぱち、ぱち、と肌の上を電流が走っている。
……叱責なのだ、と分かった。
暗い部屋の中で、手を組み、目を閉じて魔力を捧げる。
やがて意識が沈みそうになるたびに肌の表面へは電流が走った。
「あっ……!」
「……ぅ……」
交流のなかった姉が、長い間どのような環境におかれていたのかをようやく悟って、リリアは泣いた。
螺旋状の階段を無理やり上らされて、頂上にある部屋へと突き飛ばされる。
「あぁ……っ!」
その勢いで倒れこんだリリアの前に、かつんと何かが投げ入れられた。
魔石だ。
浄化の済んでいないそれは、黒々とした邪気を放っている。
「今日のところは用意をしてやった。が、いずれ魔獣を間引くことも覚えよ」
外を背にした父は月光を浴びていて、その表情は闇に同化しているように見えない。リリアは、震える唇を開いた。
「どうして……?」
父親はその声を聞いて薄く笑んだようだったが、何を言うわけでもなく扉を閉じた。
「あ……」
よろ、と扉に縋りはしたが、そこはもう、リリアの力では開けられないように施錠の術を使われている。
両親の言うことを聞いていればよかったのに。
ぜんぶ、間違えていなかったはずなのに。
……それなのに、いつからか両親は、屋敷を空けるようになっていた。
しるべを失ったリリアの前に現れたのは、子爵だった。
子爵は両親が認めた人だから、
子爵の言うことを聞いていれば大丈夫なはずだったのに。
『怒らせて、追い出してしまうんだ
僕とあなたの婚約が締結出来たらまた呼び寄せればいいから……』
背いた罰がただ、リリアに向かったというのだろうか。
(ここ、何だか力が入りにくい……)
儀式の部屋は昼間の間、太陽の光が差し込まれないように分厚い布で窓を覆ってある。
それも、定刻になると外から勝手に覆われるよう、仕掛けが施してあるようだった。
儀式の仕方など知らなかった。
浄化前の魔石はただ禍々しく、傍に寄ることも躊躇われた。
それでも、これをこなせないならば次に何が待っているのか、リリアには分からない。
(確か、お姉さまは、こうして……)
一粒の魔石を前にして、ひざまずく。
両手を組んで、祈りを捧げるように、力を差し出した。
「……ぅ……」
魔力の注力には疲労が伴う。不慣れな行為と、蓄積した恐れからの逃避で、リリアの意識がゆっくりと沈み始めた。
バチンっ。
「……あ……!?」
座り込んだまま意識を落とそうとした刹那、体の表面を打たれたような痛みが襲った。
「なぁ、に……」
ぱち、ぱち、と肌の上を電流が走っている。
……叱責なのだ、と分かった。
暗い部屋の中で、手を組み、目を閉じて魔力を捧げる。
やがて意識が沈みそうになるたびに肌の表面へは電流が走った。
「あっ……!」
「……ぅ……」
交流のなかった姉が、長い間どのような環境におかれていたのかをようやく悟って、リリアは泣いた。
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