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わからないこと、わかること

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子爵様に連絡をとってもらうべく、わたしたちは教会の敷地内にある小部屋へと移動した。まだ教会への報告を保留にしていることもあって、あまり人に会わないように移動する。
移ったのは椅子と机があるだけの殺風景な部屋。何があるようにも見えないけど、この部屋は通信阻害の干渉を受けないんだって。よく分からないけど、つまりここからなら問題なく小鳥での通信もできるということで……神官様は小鳥の休んでいる止まり木を、テーブルの上へとそっと置く。……この子に向かって話せばいいのかな?

神官様とアストとわたし。三人に囲まれた教会の小部屋で、アルはまだ後ろ手に縛られたままだ。そのまま、何てことないように小鳥へと話しかけ始める。すると、目の前の鳥からも呼応するように声がする。

『お前、何してたんだ無事か!?』

……子爵様だ。
アルは何て言うか、ふつうに近況報告みたいに話してる。

「捕まって脅されたんで全部バレちゃいました」

すぐ傍に三人いるっていうのに、そんな正直に脅されたっていう!?脅したかもしれないけど!

「それよりリリア様が危ないらしくて!」

……小鳥の向こうで、息を飲む気配がした。……気がした。
そう思いたいだけなのかもしれない。わたしと婚約破棄をして、新しく婚約を結ぼうという妹のこと、少しは気にかけてくれている?そうやって思いたいだけなのかも。……自分だってさっきの今まで、そんな風に考えてなかったのにね。

アストは壁に背を預けて、扉のほうを眺めている。ふっと神官様と目が合うと、後押しするように頷かれた。
わたしは勢いのまま、アルと止まり木の間に割り込む。急に出てきたわたしに、小鳥は「ピギャッ」と小鳥らしく鳴いた。言いたいことも聞きたいこともあるけど……

「そっちの様子、どうなってるの」





子爵様は……ブランは、名乗りもしないのにも関わらず、わたしが誰なのかが分かったみたいだった。って言っても、さっきアルが『ローズ様もいる』って言ってたから、当然かもしれないけどね。
小鳥の向こうで少しだけ押し黙ったあと、ブランは静かにわたしへ尋ねた。

『……僕の側近は無事なのか』

「あ、無事ですーー」

わたしが何か言う前に、後ろでアルがさらっと言った。
……緊張感!

「……聞いた通りよ。ちょっと自由は制限させてもらってるけど、ケガとかは……」

あれ、そういえば……気絶とかはしてたけど。大きなケガはしてないよね!?

「……あんまりしてないと思う」

『あんまり!?』

「だ、だって気にしてなくって……ねえ、あなた。大丈夫なのよね?」

「あ、ハイ。ちょっと怠いけどコレたぶん塔のほうの影響だと思うんで……」

『おい今何か新しいこと言ってないか、影響ってなんだ』

小鳥とアルのほうを行ったり来たりさせて伝えていて、小鳥からも何やら尋ねる声が聞こえて。ねえ、先にわたしの質問は!ってなった時。
横からひょいっとアストが止まり木から小鳥を掬った。あっけに取られているわたしを前にして、彼は静かに小鳥へと伝えた。
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