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光のことほぎ

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「あ……」

それは、心のどこかで強張っていたものが……ゆっくりと解けていくような感覚だった。
両目がぼやけて、熱くなって……慌ててぎゅっと唇を結ぶ。

わたし、ここに来て、よかったんだ……

「……いえ……わたしの方こそ……ありがとうございます……」

あの時、道を示してくれて。



神官様への感謝と同時に、痛感したこともある。
恐らくこの件に関して、教会からは大々的なんだ。

個人の問題として切り捨てられることが多いと、神官様は言った。
それはつまり、個々の家々の問題だとして処理されてしまうことがほとんどだということ。
だとすれば、ここで神官様に訴えたとしても……

「……妹さんの件は、こちらでも調べを進めてみます。ローズ様は……今はまず、ご自身のことを念頭においてみてください」

「わたしのこと、ですか?」

「はい。あなた自身の心と体の平穏のために、何が最善なのかを。……そして、もし良ければ、それを僕たちにもお手伝いさせてください」

……わたしの平穏のために、かぁ。
確かにずっと、平穏じゃなかった……今思うと、だけど。
……何せ暗示をかけられていたみたいだから、その時に虐げられているってしっかりした実感がなかったのよね……


わたしの様子を優しく見守ってくれていた神官様は、やがて棚へと向き合い直す。
そして、その隅の方から、台座のついた背の低い枝を、止まり木として取り出した。


「……神官様」

「はい」

「神官様が、わたしの平穏のためにお手伝いをしてくださるというのは……わたしが、教会ここに来ることが出来たからですか?」

「……そういう……ことになります」

ちょっと回りくどくなってしまったけど、神官様は正しく意図をくみ取ってくれた。
教会は……教会は、その性質上。
門戸を大きく開いているけど、教会側から行動して事を起こせるかというのが、分野によって全然変わる。

きたる者には手を差し伸べられるが、逆に来てもらわなければ保護出来ない……とか。
わたしの関わる問題は、そういう分野のことなんだろう。

そう思うと……したいことが、見えて来た。気がした。

「……わたし、ここに来ることが出来てよかったです」

「……はい」

「あの家から離れたことでいろいろなことが分かったし……」

「……」

神官様は何も言わない。でも、それが間違ってなかったことが分かる。
あの家からは、離れたほうがよかったんだ。
距離をとって、遠くから見ることで……やっと、自分の気持ちと向き合えた。

「妹を……妹もあの家から一度、離したいです」

「……ええ」

「というわけで、ちょっと行ってさらって来てしまいたいんですが!」

「………………うん?」

きゅ、と握った掌の中で、ほのかに淡い光が宿った。





「……あの、ローズ様。今は、ご自身のことを、と……」

「神官様、わたし思ったんです」

ふわりと熱が体に集まる。

この部屋は……神官様の、仮眠室も兼ねてるんだと思う。
今は扉の方から入ってくる、隣の部屋からの光と……神官様が手にしている、小さな灯りしか光源がない。

その部屋の中に、ゆっくりと……淡い光が広がり出した。
光はわたしを中心としているようだった。
辺りが、部屋の中が……少しずつまばゆくなって……

神官様が、驚いたように目を丸くした。


「正直妹のこと何も知らないなって……」

もう、あの生活には戻らない。
これは、わたしの心の中心にある確かなこと。
広がっていく、月の光のような淡い輝きが、心にゆっくりと囁いているようだった。

領地は大事だし、領民は大切だし、魔石を作るのだっていやじゃない。
でも。

自分を犠牲にして、自分の心と体を道具にしてまで作るのはいやだ。
わたしのことを虐げて来た親の言いなりになるなんて、もうごめんだ。

「だから……」

わたしが告げた言葉に、なのか。光になのか、神官様が瞬きをする。

淡い光の空間の中。
まばゆいばかりの閃光が、小さくいくつも、キラキラと弾けた。

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