婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド

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差の生むもの

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切羽詰まった気持ちが溢れて、そうねだる。

「それは……可愛がってるというか……そういうのは……」

アストは、まだ考えてるようだったけど……少しずつ、話してくれた。
言葉を選びながら切れ切れに伝えてくれる。

「……何ていうか。その、妹が可愛いから、じゃなく……親が、したいようにしてて……」

「…………?」

「……子供のことを考えて……子供の為を思ってそうしてるんじゃない、ってことだ」

「あ…………」

その話には、不思議な程、説得力があった。
子供のことを考えての行動じゃない……それは、そうだと思う。
だって、考えてたらあんなことしないはず……でしょ。

……でも、それが……妹への行動にも当てはまるの?

「……褒めたり叱ったりする基準が、物事じゃなくて、姉妹きょうだいで違ったんだよな」

こく、と頷く。

「そういう育て方……可愛がり方は……歪みが出来やすい」

「歪み……」

繰り返すわたしに、アストは言う。

褒めたり叱ったりいいことと悪いことの区別が、親の感情とか……好き嫌い、で左右される……のは。
……妹にとっても、いい環境じゃない。……と、思う」

「そう……なの……?」

妹にとっても?

「……あんたの環境が悪かったのは直接的で言うまでもないが。妹へ与える影響も、悪い」

わたしにとっていい環境じゃなかったことは、それは分かってたけど。
分かってたけど、他の人からそう認められると、ああやっぱり……って深い納得があって……

でも、あの子は可愛がられていたし……だけど、その可愛がり方が、妹をダメにするような……?

呆然と言葉を受け止めていると、頭の中が考えでいっぱいになってしまう。

唐突に、さっき頭に浮かんだ、謝らなきゃいけないようなこと……というのをはっきりと思い出した。
意識を無くして倒れる前、カップを一つ落として割ってしまったこと。

「ううん、でも……でも、妹は本当に可愛がられて……いて……」

口の中が渇いていく。
冷たい汗が背中を伝った。

ふわふわした、ピンク色の髪が頭を過ぎる。
愛くるしく整った顔立ち、薄い空色の瞳。

育ってからは、ろくに姿を見ることもなかった妹。
塔の上で、わたしを見下して、ヒステリックに罵ったリリア。

小さい頃も、彼女と話す機会なんてほとんどなくて……
きれいな服を着て、母に抱かれ、父に撫でられて、無邪気に笑った幼い顔。

幼い頃、本当に幼い頃……あの子がまだ歩けもしない時。
両親の目から隠れて、こっそりと、一度だけ、リリアのゆりかごを覗いた記憶。
小さな、やわらかな掌に、わたしの指を近づけると……


あれは、夢の続き?
それとも。


ぐるぐると、色んな想いと情景が浮かんで、消えて、今考えなきゃならないことを見失いそうになる。

ねぇ、だって……

妹は両親に可愛がられてる。


その前提が覆ったら。
あの子はどうなってしまうの?



「……そういう親は。
今まで差別してた対象がいなくなった場合、ターゲットを変える……ことも、ある」

アストは……重くなっていた、口を開く。

「あんたの次に犠牲になるのは、その妹だと思う」

「……そ……」

それって……
そう、問おうとした時。



『えぇえええ~~~っっ?!』

知らない声であげられた悲鳴は、部屋の外から聞こえた。



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