婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド

文字の大きさ
上 下
64 / 96

瞬間的に

しおりを挟む
「それは、月の光を使わずともという事かい?……しかし……」

神官様が尋ねると、アストは頷いた。
魔石の浄化には月光を用いる……細かな違いはあるだろうけど、それは大前提にも等しい決まりだった。
でも、わたしには前例……とも言えないけど、心当たりがある。
自分の体に溜め込んだ月の光の力で、一瞬にして魔石を浄化した幼い頃。
それでも、あの時は夜だったけど……

神官様は、先ほど言っていた通り、わたしへの負担を心配されていた。
でも、今回は……魔力はもちろん使用するけれど、月光の力が重要となる儀式だ。

「出来ると思う」

アストの肯定を受け取って、神官様はわたしへ視線を向ける。
出来るか……は、分からないけど。結果が出るなら早い方がいい。
わたしも、神官様へと頷いて見せた。

「……やってみます」



神官様のお部屋は、大きい窓がひとつあるだけ。
明るく日光の差し込むその窓を分厚いカーテンで覆ってしまうと、途端に部屋は薄暗くなった。
塔の中で日が昇った後に過ごしていた環境を、疑似的に作る。

アストはまた、扉の側の壁へと戻る。
わたしは神官様から魔石を受け取ると、テーブルの上へ置いて両手を伸ばした。

まずはコーティングしていた自分の魔力を表面から剥がす。
ゆらゆらと立ち上りかけた闇の力を抑えるようにイメージしながら、自分の体に貯め込んでいた月光の力を注いだ。

「んん……!」

目を伏せて念じると、掌から指先まで、淡い光に覆われるのが分かった。
発光はすぐに力を増して、やがて眼を開けていられないほどの眩しさに襲われる。

「…………っ!」

神官様とアストが、息をのむ音が聞こえた気がした。

その発光の時間も一瞬の事で……
目を開けて、かざしていた手を下す。
テーブルの上には、浄化されきった魔石が、静かに深く輝きを放っていた。

で、できた……




「……この状態が、セスティア家が納めていた魔石と同じものです」

再びカーテンを開けて、明るくなった部屋の中。
受け止めた日光を吸い込んでいくような魔石……改めて渡したそれを手にして、神官様は目の高さまで持ち上げる。

「……これは……確かに……
……どの土地の領主であろうと、このような力を持った人物を離したがりはしないでしょう」

神官様はしみじみとそう褒めてくれたけど、どうしてもお世辞に聞こえてしまう。
だって、ねぇ。
他でもない生まれ育った領地からは、追放されてしまったから。

「あはは……生まれ故郷からは、そうでもなかったみたいですが……」

ついつい、そう言ってしまった。
すると、神官様はやはり神妙な顔つきをして……

「……ローズ様。あなたにお伝えしなければならないことがあります。
あなたのことを捜索するよう届けが出されているのです……あなたの御父上から」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

私ではありませんから

三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」 はじめて書いた婚約破棄もの。 カクヨムでも公開しています。

【完結】不協和音を奏で続ける二人の関係

つくも茄子
ファンタジー
留学から戻られた王太子からの突然の婚約破棄宣言をされた公爵令嬢。王太子は婚約者の悪事を告発する始末。賄賂?不正?一体何のことなのか周囲も理解できずに途方にくれる。冤罪だと静かに諭す公爵令嬢と激昂する王太子。相反する二人の仲は実は出会った当初からのものだった。王弟を父に帝国皇女を母に持つ血統書付きの公爵令嬢と成り上がりの側妃を母に持つ王太子。貴族然とした計算高く浪費家の婚約者と嫌悪する王太子は公爵令嬢の価値を理解できなかった。それは八年前も今も同じ。二人は互いに理解できない。何故そうなってしまったのか。婚約が白紙となった時、どのような結末がまっているのかは誰にも分からない。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど

富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。 「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。 魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。 ――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?! ――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの? 私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。 今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。 重複投稿ですが、改稿してます

処理中です...