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悪意の出所

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神官様は、頷く。

「この術は、塔の……ローズ様が日々のほとんどを過ごしたと言っていた、儀式の間に掛かっていたのでしょう。
昼などは分厚い布が窓に掛かっていたと、そう言っていましたね。……空間を作るにはうってつけだ」

「空間?」

神官様は空になったコップを手に取ると、その飲み口にもう片手を近づけ、まるで蓋をするように掌を被せた。

「こんな風に……空気の流れを少なくすることで、術の効果を中で充満させる事が出来るんです。
必ずしも、完全な密室である必要はないのですが」 

「…………そんな事が……」

「空気や、人の流れで変容するタイプのものだと思います。
……一人で、なるべく動かず作業をしていたというローズ様には……効果が覿面てきめんだったかと」

「……あ……」

塔は。わたしが生まれる前からあったものだ。
でも、……でも。
わたしが……儀式係を始める前までは、その部屋は……たとえ儀式の最中だろうと、人の出入りがあった。
昼でも、夜でも。
そうして、交代しながら作業をすることで心身の消耗を防ぐのだと、浄化係をしていた領民の人たちが教えてくれた。

だから、その塔の仕掛けが、一人用だと言うのなら……
それは、きっと、私専用の仕掛けだったという事に、なる。

「…………」

だとしたら。
…………誰が、なんて。聞くまでもない事のような気がしたのに。
でも、口にしたら、覚悟していたはずなのに……また、何かが崩れそうで。
言葉が出なくなってしまった。


コン、と。
ノックの音が響いた。
はっと、暗く沈んでいた所から意識が浮かぶ。

そのノックの後、返答を待たずに扉が開いた。
アストが、湯気の立った皿を乗せたトレイを持って入ってくる。

「失礼、話を急ぎすぎましたね……食事にしましょうか」

「い、いえ……はい、ありがとうございます」

アストを見た神官様が、雰囲気をふっと柔らかくして、そう言ってくれた。
わたしも頷く。
美味しそうな香りが漂ってくる。きゅる、とお腹の鳴る気配がして……そっと手で抑えておいた。

「……あの、お二人は?」

「とっくに食べた」

どこで食べる?と聞かれて、ベッドで起き上がっているだけの自分に気が付く。

「お、起きる。起きます……」

そういえばわたし、寝起きで二人と話してたってことになるんじゃ……!?
倒れてたってことだから、厳密には違うかもしれないけど……
今さらすぎるけど、ちょっと何というか。申し訳ないような。
……食事をしたら生活魔法かけさせてもらおう……。
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