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命のお水

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アストの声を聞いた事で、何となくだけど自分に起こった事を思い出せて来た。
そうだ、わたし……領地を出て、それで……教会にたどり着いたけど、話してるうちに気持ち悪くなって……
気を失っちゃった、のかもしれない。

「おい、大丈夫か?」

起き上がったというのに何も反応しないでいる私を見かねてか、アストがカーテン越しにもう一度声を掛けてくれる。

「あ、うん。……あれ……?」

今度は反射的に返事をしたんだけど、自分の喉から出た声がものすごく掠れてて、そのことにびっくりしてしまった。
そういえば口の中もからからだ……

「開けるぞ」

断りを入れられて、小さい声で「ど、どうぞ」と返事をする。
ベッドの周りのカーテンを開けて、アストが顔を出した。

「……痛むところは?水は飲めそうか」

枕元に置いてある水差しから、コップへ水を注いで差し出してくれる。
ありがたく頂いて口をつけながら、自分でも体調を確かめてみることにした……んだけど。
でもそれより先に水がおいしくて、ごくごく一気に飲み干してしまう。

「……ぷは!……何これおいしいね……」

体の中に染み渡ってくのが分かる……!
水を飲んだことで、喉の掠れもよくなったみたい。水分が足りてなかったのね、きっと。
空のコップを持って感動してるわたしに、アストが追加で水を注いでくれた。

「もう少しゆっくり飲め。…………まあ、大丈夫そうには見えるが」

気のせいか呆れてるようにも見えるけど、とりあえず気のせいという事にさせてもらおう。

今度はちびちびと水を飲みながら、改めて自分の体調と向き合ってみる。
特に変なところはなさそうだ。
頭はちょっとくらっとするけど、これはきっと横になったのが長かったからかな……?っていう感じだし。

特別に気持ち悪いとか、そういうのはなさそう。
隣に立ってくれているアストにも、そんな風に伝えた。

「……しいて言うなら……ちょっとお腹が空いてるような……」

「今持ってくる。……無事ならそれで」

簡単な問診(?)は、それで終わったみたいだ。

「ところでここって……」

「叔父貴の私室。あんたを最初に通した部屋と、扉続きになってる」

す、と視線をドアに送る。なるほど、あそこで繋がってるんだ。

「医療室に入れても良かったんだが、あっちは人の出入りが多いから、とりあえず。……寝るときは別の所行ったから安心しろ」

「??うん、ありがとう」

事情を話してる途中だったし、考えてここに寝かせてくれたっていう気遣いがよく分かった。
あ、でも寝るとき別のところに追い出してしまった……っていうことは、わたしそんなに眠ってたんだな……一晩……とか、丸一日とか?
お腹も空くわけだ。

「アストもずっと気にしててくれたのね、本当にありがとう。神官様は?」

「別にいい。叔父貴はもう来ると思う」

「そっか。神官様にもお礼言わなくちゃ……わたし、どれぐらい眠ってたの?」

そう聞くと、アストは少し黙ってから、口を開いた。
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