上 下
50 / 96

塔への突入、その果てに

しおりを挟む
「ご両親が……?」

「はい、今しがた早馬で連絡が届いて……もっと後だと聞いていたから、皆少し、慌てていて……」

皆が慌てていると言うが、その筆頭はリリアだろう。
主人が留守にしていたとはいえ、使用人たちは仕事をさぼっていたわけではない。
出迎えに関して多少の用意は必要だろうが、それだけだ。

しかし、ブランは罪を犯し、リリアはそれに巻き込まれてくれた。
姉を追い出して、婚約を二人で結び直そうというのだ。
罪の意識を持つ人間が、下手を打てばいきなり断罪と対峙させられるのだから。

ブランは、自分の顔色もわずかに悪くなるだろうことを自覚しながら、リリアの肩へと手を置いた。

「……大丈夫だ。それに、いずれ話をする事は決まっていたんだ。早いか遅いかの違いで……とにかく、僕に任せていればいい」

「……はい」

そう言ってやると、リリアは少し落ち着いたようだった。



それからいくらも経たない内に、領主夫婦が帰還する。
礼を失しないように一度宿へ帰ろうかと過ったが、リリアを矢面に立たせる事がいい手とは思えず、ブランも一緒に夫妻を出迎えた。

馬車から降りてきた領主は、表情のない顔でリリアを見ると、次にブランへと目を留めた。
リリアが明るい声を上げる。

「っお父様、お母様……お帰りなさい!随分早かったのですね……」

「…………ああ、リリア。妙な虫がついていまいか心配でな……嫌な予感がしたのだよ」

「今戻ったわ……まあ!いらしていたのですね、ダールク子爵」

夫人は愛想よくブランへも挨拶をしたが、どこかくたびれた顔をしていた。
これはやはり、予定外の事らしい。
ブランはごくりと喉を鳴らすと、挨拶の後で切り出した。

「本日は……お話があって、参りました」

「……何ですかな?手短で済むとありがたいが」

「……お手間は取らせないつもりです。……えぇと……ここで、ですか?」

ここは敷地内ではあるが、まだ門を入ったばかりの場所だ。

「直接我が領地へいらした程に急用なのでしょう……ここで窺っても構いますまい。おい、先に入っていろ」

「えっ?えぇ、はい」

夫人は頷いて、荷物を持った使用人たちと屋敷へ向かう。
娘を連れて行きたそうにしていたが、彼女にも関係があるので……と伝えて、リリアには残ってもらった。

腰を据えてでも何でもない場だが、元から突貫で作り上げたような計画だ。
そもそも、手順を踏んでいないのは承知の上……
視界の端に、震えているようなリリアの身が見える。
その怯えるリリアの体を領主の視線から隠すように二人の間に立つと、えぇい、と覚悟を決めてブランは話し出した。

「実は……」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。

みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。 主人公は断罪から逃れることは出来るのか?

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

婚約破棄?とっくにしてますけど笑

蘧饗礪
ファンタジー
ウクリナ王国の公爵令嬢アリア・ラミーリアの婚約者は、見た目完璧、中身最悪の第2王子エディヤ・ウクリナである。彼の10人目の愛人は最近男爵になったマリハス家の令嬢ディアナだ。  さて、そろそろ婚約破棄をしましょうか。

婚約破棄を告げた瞬間に主神を祀る大聖堂が倒壊しました〜神様はお怒りのようです〜

和歌
ファンタジー
「アリシア・フィルハーリス、君の犯した罪はあまりに醜い。今日この場をもって私レオン・ウル・ゴルドとアリシア・フィルハーリスの婚約破棄を宣言する──」  王宮の夜会で王太子が声高に告げた直後に、凄まじい地響きと揺れが広間を襲った。 ※恋愛要素が薄すぎる気がするので、恋愛→ファンタジーにカテゴリを変更しました(11/27) ※感想コメントありがとうございます。ネタバレせずに返信するのが難しい為、返信しておりませんが、色々予想しながら読んでいただけるのを励みにしております。

パーティー会場で婚約破棄するなんて、物語の中だけだと思います

みこと
ファンタジー
「マルティーナ!貴様はルシア・エレーロ男爵令嬢に悪質な虐めをしていたな。そのような者は俺の妃として相応しくない。よって貴様との婚約の破棄そして、ルシアとの婚約をここに宣言する!!」 ここ、魔術学院の創立記念パーティーの最中、壇上から声高らかに宣言したのは、ベルナルド・アルガンデ。ここ、アルガンデ王国の王太子だ。 何故かふわふわピンク髪の女性がベルナルド王太子にぶら下がって、大きな胸を押し付けている。 私、マルティーナはフローレス侯爵家の次女。残念ながらこのベルナルド王太子の婚約者である。 パーティー会場で婚約破棄って、物語の中だけだと思っていたらこのザマです。 設定はゆるいです。色々とご容赦お願い致しますm(*_ _)m

婚約破棄されたけど前世が伝説の魔法使いだったので楽勝です

sai
ファンタジー
公爵令嬢であるオレリア・アールグレーンは魔力が多く魔法が得意な者が多い公爵家に産まれたが、魔法が一切使えなかった。 そんな中婚約者である第二王子に婚約破棄をされた衝撃で、前世で公爵家を興した伝説の魔法使いだったということを思い出す。 冤罪で国外追放になったけど、もしかしてこれだけ魔法が使えれば楽勝じゃない?

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……

Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。 優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。 そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。 しかしこの時は誰も予想していなかった。 この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを…… アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを…… ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

処理中です...