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ノックの後、こちらの応答を待たずにドアが開いた。
アストが戻ってきたようだった。片手に、カップの乗ったトレイを持っている。
「外に居たらシスターに怒られた。客人にお茶も出さないなんて、だとさ」
「あぁ、ありがとう……そういえば、何も用意していなかったな。すみません、気が利かず……」
神官様が額の汗を拭いながら言った。わたしは慌てて手を振りながら否定する。
「いえ!わたしが急に来てしまったので……!あの、ありがとうございます」
神官様とアストヘお礼を伝える。
アストはテーブルの上にカップを並べた後、その内の一つを持って、ドア側の壁へと凭れるようにして立った。
「……で、何か分かったか?」
神官様がカップを持ち上げて一口を飲み、喉を潤わせてる。
わたしも倣うようにテーブルからお茶をもらって、カップを両手に包んだ。
暖かいお茶だ。種類はわからないけど、リラックスするような……いい香りがする。
神官様はお茶で唇を湿らせて、しばしの間カップの中の水面を眺めてから、口にした。
「ローズ様の……ここ数日の変化が見えました。しかし……」
そこで言いにくそうに言葉を切り、
「あの姿は、ここ数日だけのものではありませんね?」
そう言った。
「あの姿?」
アストが眉をひそめて聞き返す。あまりいい話ではないと思ったのだろう。
神官様がわたしを見る。話していいか、と聞いているようなその視線へ、わたしは頷いた。
「……ひどく痩せていて、疲労の度合いもとてつもなく濃いような姿だった。あれは、数日という期間ではそうはならないだろう」
「どういうことだ、説明してくれ」
神官様のお話に、アストがわたしへと視線を移す。
わたしは、少し迷ったけど正直に話すことにした。
この姿に……健康的な体になったのが、つい先日だということを。
「…………わたしの追放された領地では……魔石を回収するのも、研磨も、浄化も……わたし一人の仕事でした」
幼いころ、再鑑定を終えた日から始まった日々のこと。
塔と森を往復してモンスターを狩り、魔石を回収し、浄化にあたって一睡もせず塔の間へ籠っていたこと。
浄化の儀式の最中は、食事をとる時間も余裕もなくて……ほとんど、魔力だけで体を保っていたこと。
そんな生活を数年もの間続けて、骨と皮だけの姿になってしまったということ。
「そんな事が……」
「…………」
話すにつれて、二人が絶句するのが分かった。
ぽつ、ぽつと話すわたしの声を、二人は妨げずに聞いてくれる。
手の中のカップが、冷たくなって行くのがわかる。
声を出すのが、何だか苦しい。
「それで……塔を、抜け出して…………でも、力が、上手くコントロール出来なくなっていて……」
その時、ぐらっ、と視界が揺れた。
目の前の神官様が、歪んで、斜めの姿になる。
ゆらゆらした神官様の、焦ってるような顔が見える。
「…………?」
あ、違う、これ……
「おい」
「アスト、――を呼んで……」
これ、わたしが。倒れてるんだ。
二人の声が遠くのほうで聞こえる。
きもちわるい……
ガチャ……ン……
小さく、カップの割れる音が響いた。
アストが戻ってきたようだった。片手に、カップの乗ったトレイを持っている。
「外に居たらシスターに怒られた。客人にお茶も出さないなんて、だとさ」
「あぁ、ありがとう……そういえば、何も用意していなかったな。すみません、気が利かず……」
神官様が額の汗を拭いながら言った。わたしは慌てて手を振りながら否定する。
「いえ!わたしが急に来てしまったので……!あの、ありがとうございます」
神官様とアストヘお礼を伝える。
アストはテーブルの上にカップを並べた後、その内の一つを持って、ドア側の壁へと凭れるようにして立った。
「……で、何か分かったか?」
神官様がカップを持ち上げて一口を飲み、喉を潤わせてる。
わたしも倣うようにテーブルからお茶をもらって、カップを両手に包んだ。
暖かいお茶だ。種類はわからないけど、リラックスするような……いい香りがする。
神官様はお茶で唇を湿らせて、しばしの間カップの中の水面を眺めてから、口にした。
「ローズ様の……ここ数日の変化が見えました。しかし……」
そこで言いにくそうに言葉を切り、
「あの姿は、ここ数日だけのものではありませんね?」
そう言った。
「あの姿?」
アストが眉をひそめて聞き返す。あまりいい話ではないと思ったのだろう。
神官様がわたしを見る。話していいか、と聞いているようなその視線へ、わたしは頷いた。
「……ひどく痩せていて、疲労の度合いもとてつもなく濃いような姿だった。あれは、数日という期間ではそうはならないだろう」
「どういうことだ、説明してくれ」
神官様のお話に、アストがわたしへと視線を移す。
わたしは、少し迷ったけど正直に話すことにした。
この姿に……健康的な体になったのが、つい先日だということを。
「…………わたしの追放された領地では……魔石を回収するのも、研磨も、浄化も……わたし一人の仕事でした」
幼いころ、再鑑定を終えた日から始まった日々のこと。
塔と森を往復してモンスターを狩り、魔石を回収し、浄化にあたって一睡もせず塔の間へ籠っていたこと。
浄化の儀式の最中は、食事をとる時間も余裕もなくて……ほとんど、魔力だけで体を保っていたこと。
そんな生活を数年もの間続けて、骨と皮だけの姿になってしまったということ。
「そんな事が……」
「…………」
話すにつれて、二人が絶句するのが分かった。
ぽつ、ぽつと話すわたしの声を、二人は妨げずに聞いてくれる。
手の中のカップが、冷たくなって行くのがわかる。
声を出すのが、何だか苦しい。
「それで……塔を、抜け出して…………でも、力が、上手くコントロール出来なくなっていて……」
その時、ぐらっ、と視界が揺れた。
目の前の神官様が、歪んで、斜めの姿になる。
ゆらゆらした神官様の、焦ってるような顔が見える。
「…………?」
あ、違う、これ……
「おい」
「アスト、――を呼んで……」
これ、わたしが。倒れてるんだ。
二人の声が遠くのほうで聞こえる。
きもちわるい……
ガチャ……ン……
小さく、カップの割れる音が響いた。
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