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行く宛
しおりを挟む店主さんとおかみさんに見送られ、お店を出て町を歩く。
わたしの着ているローブは魔術師特有の服装だから、そんなに珍しくはないはず。
現に、行きかう人の中でも、似たようなローブの人を見かけた。
お昼前の市街は人で賑わってて、あちこちで客引きや物売りの声が行きかってた。
おかみさんと店主さんに言い含められた通り、フードを深く被ってる。
だから、視界は正直そんなによくないんだけど。
でも、今までわたしがいた閉じた世界とは違って、きらきら輝いているのが分かった。
たっぷり眠ってしっかり休んでご飯も食べたから、日光を浴びても大丈夫……な、気がする!
それに、体が健康的になったから。それだけでどこにでも歩いて行ける気がしてしまう。
……まあ、不健康な体でも魔力を使って動かせたりはするんだけど。
更に体に悪いことに……っていう悪循環になりそうだしね。
さて、行く宛の事だけど。
自信満々にイエスと答えたのは、子供の時のことを夢に見て思い出したから。
『大きくなってもしも何かあったら、大教会の方まで来るといい』
幼い頃に魔力の再鑑定に向かった教会で、確かに神官様はそう言ってくれた。
領地追放に婚約破棄という傷のついてしまった身ではあるけど、教会は誰のことも拒まない……というのが一応の看板であるわけだし。必死でお願いしたら、就職口とか紹介してくれるかもしれない。
うーん、でも。問題はそこに行くまでの手段……
やっぱり身体強化して走るしかないかな……
夜に動けば目立たない、かもしれないけど。でも、見つかった時に余計怪しいかな……
そうやって考えながら、無意識にローブを掴んでしまったみたいだ。
「……あれ?」
布越しに、何かコツンとした感触のものが指に当たった。
携帯食とも少し違う、金属の固さみたいな。
こんな質感のもの持ってたかしら。魔石は別のポケットだし……
こっちのポケットに入れておいたのは、おかみさんから貰った携帯食だけのはず……
取り出してから袋の口を開く。中を覗き込んでよく確かめてみると、クッキーとは別に、袋の底に小さな包みが入ってる。
触れてみると、コツンと固い。掌の上に取り出して、包んである紙を開いた。
「!!」
お金……!?
小さな包みの中に、貨幣がそっと入っていた。
中央へ行って帰ってくるには十分すぎるほどの金額だ。
お店で売ってる携帯食に、こんなもの入ってるはずがない。
パっ、と来た道を振り返る。戻ってお礼を伝えることは出来ないけど……
何も言わずに入れておいてくれたんだ……たくさん、助けてもらってる。
きゅ、っと胸に袋を抱える。お店の方角に、深く深くお辞儀をした。
「……大事に使わせてもらおう」
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