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屋敷にて4

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「それで、ご両親のお帰りはどれぐらいの予定だったかな?」

「えぇっと、まだしばらく掛かると聞いてますわ。でも、良かったんですの?お父様とお母様に内緒でこんなこと……」

「もちろん!これは僕と君との輝かしい未来のため……どうしても僕は君と一緒になりたいんだ、可愛いリリア。僕の言う通りにしておけば大丈夫だからね」

「そうなのね……子爵様、あなたがそう仰るなら……」

自信たっぷりに笑いかけられ、リリアも子爵へと笑みを返した。



「しかし、あの塔はどうする?ご両親がお帰りになる前にどうにか直せないものか……」

「そうですわね……でも、そんなものは……」

そんなものは姉に、と言いかけて気づく。そういえば追い出したんだった。

(でも、別に大丈夫だわ。うちの魔石があればあのくらいのもの)

いくらでもある。大丈夫だ。物心がついてからずっと、うちに魔石が存在しない時なんてなかったのだから。


考えに気を取られて、少しだけ黙ったリリアへ子爵が声をかける。

「……リリア?」

「あ……失礼しましたわ」

リリアは、気を取り直すように、にこっと笑った。

「大丈夫です、地下の保管庫に魔石がございますから。そちらを使いましょう」

子爵は少し、うろたえたようだった。

「だ、大丈夫なのか。その……あんな建造物を直すには魔石を大量に使うのでは?」

「魔石はまだまだ有るから大丈夫ですよぉ。
それでは取って参りますので~」

「あ、あぁ。リリアがそういうなら……」

何か言いたげにしている子爵を置いて、リリアは客間を後にする。



地下への階段を下りて、保管庫の前に立つリリア。
厳重な扉だが、リリアは開け方を知っている。以前、父がこの部屋に入り、魔石を取っていくのをこっそり見たことがあったから。

この部屋は親族にしか入れない造りになってるらしい。
扉の横にある石へ掌をくっつける。すると、魔力を感知したのかカチッと錠の外れる音がした。

(ほんとは、勝手に入っちゃいけないって言われてるけど……)

ギィ……
「んん~……」

重い扉を少しだけ開ける。中は真っ暗だ。
扉を開けた分だけ、ちょっとだけ光が差し込まれて、目をこらすと薄らとだが何かが置いてあるのがわかる。

「あっ。きっと、あれね」

袋を発見して近寄る。触ってみると、確かに魔石の感触があった。

「うん、これだけあれば十分……あら?」

持ち出そうと引っ張ると、腕が何か木の札のようなものに当たる。

「なにこれ、邪魔よ……よいしょ」

札を腕でどかして、袋を持ち上げようとするリリア。

「……?」

一瞬、リリアの胸の内に黒いシミのような不安が落ちた。
その不安を、頭を振ることで追い払って、ずしり、と重たい袋を腕に抱く。

これは求められたこと。わたしのすることは全部褒められること。
手が震えるのは、重たいものを持ったからだ。

今目の前にいる人を、失望させるわけにはいかない。



リリアは、魔石の入った袋を両手で抱えて保管庫を後にした。




もし、この時に魔力でも魔石でも使って、ほんの少しの明かりを点けていたら、リリアにも木札の文字が読めていたかもしれない。
大きく「確保分・使用厳禁」と書かれていた文字が。
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