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屋敷にて3

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<途中で視点が変わります>









『ブラン様』

「……後はつけたか?」

『抜かりなく。奴め、森の中を通って行ったが為に一度見失いましたが』

「抜かってるじゃないか???」

『ご安心下さい。あの棒切れのような姿を誰かと見間違える筈もなく、すぐに見つかったので尾行を再開しました』

「そ、そうか……」

『現在は町の食堂へ立ち寄った模様です。中の様子までは見えませんが……』

「フン、呑気なものだ。引き続き追い、領地から出たら……後は、分かるな」

『御意。
……時にブラン様。ずいぶんと………大胆なイメージチェンジを……』

「??何の話だ」

『いや、髪型の』

「は?……うわ何だこれは????!」









□□□






両親の部屋から魔石を拝借し、戻ってきたリリア。
客間へ近付くと、中から、何やら潜めてはいるが話し声が聞こえる。

(??他にお客様でもいたのかしら)

そっと覗いてみたが、椅子に座った子爵が一人でぶつぶつ呟いている所しか見えなかった。

(ブラン様、お一人で一体何を……あっ)

首をかしげて観察していたリリアだが、子爵が唐突に自分の頭を触って叫びだしたので、慌てて中へ入っていった。

「ぶ、ブラン様~!お待たせいたしましたっ」

「な、何だこれは……何やら僕の頭がもふもふしている……お、おい……ハッ、リリア!いつの間に」

やっぱり誰かと話しているような感じだった。
しかし、周りを見ても誰もいない。そしてリリアはあまり気にする余裕がなかった。
今は早く、子爵の髪型を戻して上げた方がいい気がしたのだ。

ひっそりと窓際から一羽の小鳥が飛び立っていくが、やはりリリアは気にも留めなかった。

「ほほほ……今魔石を持って参りました!すぐ元通りにして差し上げますわ~~~」

「あ、あぁ……頼むよリリア。ありがとう!」

「ええ!ちょっと待ってくださいませね……」

子爵の方も、何かを話す気はないようだ。
早速持ってきた魔石を取りだし、手をかざして力を発動させる。

(ブラン様、独り言がご趣味なのかしら……??)

何はともあれ一番初めに子爵の髪型から戻しながら、リリアは心の中でこっそりと首を傾げた。




リリアは、自分がした時と同じように、子爵の頭も服もすっかりきれいに戻し、傷も治した。
魔石は使う度にさらさらと砂になり、消えていった。

「うむ、見事なものだ……」

自分の体のあちこちを触りながら、傷や汚れがなくなっていることを確認している子爵。
重点的に頭を触っている時間が多いように見えるのは、気のせいではなさそうだ。

服が破損したところもすっかり元通りに修復されているのを確認して、子爵は感心したように声を上げた。

「自前の魔力を使わず、魔石だけでこうも完璧に……やはりセスティア家の魔石は素晴らしいな!」

「褒めて頂けて光栄です~」

メイドの持ってきた紅茶を口にして、にこにこと答えるリリア。
テーブルを挟んで子爵とは対面の椅子に座っている。
両親の部屋から持ち出してしまった魔石もすべて使ってしまったが、些細なことだと感じていた。

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