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言えない理由

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ガタガタっ
「つっ、追放って!追放ってそりゃまた何が、んぐぐぅっっ」

「シーっ、シーっ!ばかだね!外に聞こえたらどうすんだい!!」

立ち上がって詰め寄ってくる店主さんに、おかみさんが慌てて口を塞ぐ。
ハッ、そうだ。わたしがここにいるって外に聞こえちゃまずいよね……!
そう思って、三人が座るテーブルの周りだけシールドを展開することにする。

しゅぅううう……
「あ、あのっ。中からの音を通さないようにシールドを張ったので、もう大丈夫かと……」

「あらぁ、そんな事も出来んのねぇ」

「どーだ、お嬢様は凄いだろ!」

「あ、だからその、お嬢様じゃなくなっちゃって……」

「あんたが威張ってどーすんだい。
はぁ、にしても、すごいねぇローズ様……じゃない、ローズちゃん、かい?」

「!!」

ローズちゃん!不意にかわいく呼ばれてしまって、嬉しくなっちゃった。

「え、えへへへへ……はい、それで……」

ほっぺに手を当ててにこにこしてると、店主さんからおかみさんへツッコミが入る。

「お前のその慣れの早さはどーなってんだぃ……
それで、お嬢様……えぇい、抜けねぇな。……すまんがお嬢様と呼ばせてくれぇ……!」

「ふふっ、はい。それでお願いします」

あっという間に呼び方を気安くしてくれたおかみさんと違って、店主さんは一緒に魔石を浄化した時のクセが抜けないみたい。
もう何年も前だし、見習いで一緒にいたのは短い間だったのに……その事も何だかうれしい。わたしは笑って頷いた。




「話を戻すけど、そんで……どーいうことなんだい?」

「………えぇっと……」

説明、しようと思ったんだけど。
うぅーーーん。どうやって説明しよう……
あんまりお父様……領主のことを悪く言うのはよくない、よね……だって、この人達はこれからもずっとここで暮らすんだもん…………

ちょっと道を歩いた感じだと、町の中は結構豊かで……皆あんまり暮らしに困ってない、気がする。
それなのに、わたしが変なこと吹き込んでしまって、嫌な気持ちで住んでてほしくない。

わたしへの仕打ちはともかく、領民が問題なく暮らせてるんだったら……
悪くなんて言えない。
わたしが居なくなるっていう、そのことだけ言えばいいや。

「………ぇ、っと…………」

…………でもやっぱり情けなくて、下を向いて小さくなっちゃう。
そこから何も言えなくなっちゃった。

店主さんとおかみさんが困ってるのが何だか伝わる。
しばらくそうして悩んでたら、おかみさんが優しい声を出してくれた。


「ローズちゃん、顔をおあげ」

「ぅ…………」

さっき決めてもらったばかりの呼び方で名前を呼ばれて、おずおずと顔を上げる。
二人とも、やっぱり困ったような顔をしてる。でも、おかみさんは優しくちょっとだけ笑って……

「…………事情は知らないけど、領地ここを出てかなきゃいけないんだね?」

コク……
「っ……はぃ…」

「それって、今すぐ出てかなくちゃダメなのかい?」

「あぁ、そうだな。もーちょっとゆっくりして、休んでっても良いんじゃないか?」

「……ありがとうございます。でも……」


万に一つでも、このお店に……この二人に迷惑を掛けるわけにはいかないもん。
………すでに一つ!勝手に部屋を大改造するっていう大迷惑な事をやらかしちゃってますし!

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