婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド

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これからは自由!

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す~…す~……
パチ……

「ふわっ……!?」


はっ……木陰で元婚約者と妹を観察してたと思ってたのに、疲れすぎていつの間にか眠ってたみたい……!
まだ崩れた塔がパラパラと落ちてきてるのを見ると、そんなに長い時間じゃなかったようだけど……
急がないと、人が来ちゃうわ。早くここを離れようっと。


「ふぁー……」

あくびをして、立ち上がる。なんか懐かしい夢も見た気がする。
子供のころの、初めて魔石を浄化した日とか……一人で全部大変な儀式をこなす事になった日とか。
うーーん、今思い出しても過酷。


…………お別れの日だっていうのに、お父様とお母様の姿はない。
屋敷にいるのかな?と思ったけど、何日か前に魔石を届けに行ったときに見た感じだと、また旅行だって方々ほうぼうを遊びまわってるんだろーな。
娘との別れにも会いに来ない、か……
……あ、もう娘じゃないんだった。元娘、かぁ。



……行こう。
誰かに会っても嫌だし、森の中を抜けていこう。



ザザザ……っ

身体強化をかけて森の中を高速で移動する。
この森には全体的に結界が張ってあって、中にモンスターが閉じ込められてるから、普通の人は入ってきたりするはずがない。

「確かこの辺に……あっ」

途中できょろきょろ、と辺りを見回す。
草むらの中でキラ……ッと光ったところに目をこらすと、魔石の原石が発するオーラが見えた。

「あったあった」

この前ここでモンスターを倒したとき、ちっっちゃいのを一つ落とした気がしたんだ。
その時は急いでて回収できなかったけど……

ひょい
「……小さいけど、大丈夫」

小さな原石をぎゅっと握りしめる。
パっ、と手を開くと、ぱらぱらと削りかすが地面に落ちていく。
そこには形を整えられ、きれいに磨かれた魔石があった。


まだ浄化してないから、暴発しないように魔力でコーティングして……
手に乗せた魔石を、もう片手でゆっくりなでる。
禍々しい光が、すぅっと和らいでいくのが分かった。

「うん、これでよし!」

出来上がった魔石をローブのポケットへそっと入れた。
夜になったら浄化して、使えるようにしておかなくちゃ。
これくらい小さな石が一つだけだったら、一晩祈るだけでも大丈夫だと思うし。

何かに使えるかもしれないから、貰っていく事にするんだ。
これぐらい、いいよね?



……こーやって、うちではわたし一人がずっと儀式をしてたんだけど……それって、両親が見栄を張りたかっただけなんだろうな~~。
領民の犠牲なくして広大な領地を維持、発展させてます!って周りに宣伝できるし。あと単純に、雇った人に高いお給料払わなくていいもんね。
全部それも、私が一年のほとんどを塔にこもって祈り続けてただけだったんだよ。私が無料で使える便利な存在だったってこと。

せめて待遇とかよくしてくれてたらな、と今になってみると思う。家族だからってお給料もらってなかったし。
代わりに労ってもらうとかもなくて、魔石を届けたらフンッて顔して「次もさっさと持ってこい」って言ってモンスター退治に追い払われるだけ。それで原石をとってきて、加工して、必死で祈って……の繰り返し。


年頃の娘がろくに貴族教育も受けずに。社交パーティーにも出してもらえず。
長年の儀式で髪や肌はパサパサでぼろぼろ。
着てる服だって、儀式用って言われてお父様から渡された、質素な布だけ。
わたしが元婚約者に引きこもりなんて呼ばれてたのはこういうわけがあったのです。


……失望されたくなくって、頑張ったけど……でも、元娘でもう良いや。
ちょっとだけ眠って、頭が働くようになってきた。




ガササッ……

「……ふぅ」

森を抜けた。回り道になったけど、この道を行けば町に出るはずだ。
お日様の下で、んーーーって伸びをする。
自由だーーー!


クラッ…

「あゎゎ……」

おっとと、日光なんて久々に浴びるからめまいが……とりあえずどっかで食事だな……
儀式のときはご飯どころじゃなくて、水だけでしのぐ事もしょっちゅうだった。
おかげでガリガリになっちゃったよ。
でも、これからは好きなものが食べられるんだ……



……あれ、これってすっごい楽じゃん?自分だけなら魔石なんて作らなくても大概のことは持ち前の魔力と生活魔法で何とかなるし……
あの過酷な生活から解放されるなら追放って結構……ううん、とってもいいかも?なんて考えちゃったりする。

「ふむぅ……」

よしっ、追放されたことだし……これからは気ままに生きていこう!
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