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儀式中は立入厳禁!

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ここは塔の間と呼ばれる儀式の部屋で、その名の通り大きな塔の上にある。
石造りの、古めかしい塔だ。中も殺風景で、ろくな設備があるわけではない。
ここでする儀式は一つだけ。それは魔石という魔力を込めた石から、闇の力を取り除いて浄化する儀式。

わたしは一か月のほとんどを、ここにこもって祈りを捧げ続ける儀式をして過ごしている。
一回の儀式には大体三日三晩かかるのだが、今日はその三日目の昼で……

「ローズ・セスティア!貴様にこの僕ブラン・ダールクとの婚約破棄、ならびにセスティア家追放を言い渡ーーーす!!!」

バタンッッ!!
そういって塔の間に入ってきたのは、わたしの婚約者である子爵のブラン様。そして、わたしの妹リリア。

集中していたから音に気付けず、軽々と二人の侵入を許したわたしは……

「あーーーー!!!」

あまりのことに大声を上げてしまった。浄化してる最中に入ってきちゃダメって、あんなに書いてあるし言ってもあったのに~~!!
慌てて魔石を一個一個持ち上げて調べる。ああ、こっちも……こっちもダメ…………

「聞いてるのか!?」

こっちのこの態度が気にくわなかったらしく子爵は地団駄踏んで証文をつきつける。
勢いにおされて受け取って読むと、確かにその証文には二人が婚約破棄をすること、私がこの家、つまり領地を追放されることが決定したと書かれていた。

「…………は~」

気のないため息しか出ない。正直破棄もどーでもいい。婚約が決まった時だってどーでもよかった。大体、お会いしたのは一度か二度じゃなかったかしら?

婚約者、ブラン様。ブロンドの髪が風に靡いてる。青い目はギラギラとこちらに敵意を伝えてきている。甘い顔立ちは多くの人の目を引きそうだけど……今は、表情が大きく歪められていた。
隣にいるのは妹のリリアだ。100人いたら100人がその容姿を絶賛しそうな可憐な美少女。ふわふわしたミルキーピンクの髪。薄い水色の目が……こっちも、今は血走ってしまってる。

この二人が一体なんでこんなことを……っていう疑問より先に、今は絶望が勝ってしまう。

「へ~……」

「婚約破棄の理由はだな!!」

こっちが何も聞かないからか、子爵は怒りながら理由まで並べてきた。

「年頃の令嬢ともあろうものが引きこもってばかりで容姿に気を使わない。社交パーティーにすら出てこない。老婆のような見た目をして暗く部屋に閉じ籠るし……最悪な事は、この僕へ一向に敬意を払わない事だ!!」

あー、うーん、そういう……?

容姿のことは、まーしょうがない。理由があるとはいえ、髪はぼさぼさ肌もがさついてて言われた通りの見た目になってる。パーティーは……あんまり興味がないっていうのが本音だけど、出してもらえなかったっていう理由の方が大きい。うちのその辺の事情は伝わってないのかな?
しかしうちの領地のご老人は結構みんな元気で若々しいんだぞー。ガリガリで不健康なわたしと一緒にしないでくださいな。
んで最後のやつ。政略結婚とはいえ会って間もない見下し丸分かりの相手にどーやって敬意を払ったらよかったんでしょー??

「ほ~…………あのぉ、塔の入り口に立ち入り禁止の札ありましたよねぇ~……?」

儀式途中の魔石を両手にして右から左に聞き流しながらぼやいたら、聞き咎めたのか妹が口を出してくる。

「あら!この領地の中でわたしが入っていけない場所があるとお思い!?」

「はは…………そだね……」

それはね、結構たんとあるんだよリリア。危険な場所とか含めてだけど。乾いた笑いが出てしまう。それをどう勘違いしたのか、妹が更に勝ち誇った。

「わかりました?お姉さま。いーえ、追放されるあなたは、もうわたしの姉でも何でもなかったわね。さっさとわたしと子爵様の前から消えてちょうだい!!」

……ん??
妹のその言い分が引っかかって、子爵様の方に顔を向ける。

クルッ
「そーいえば、婚約のことはともかく家の追放はあなたに関係ないんじゃありませんか?」

わたしと婚約破棄をすれば、うちとは縁もゆかりもなくなるはずの婚約者様。
それなのに何でまとめて証文持ってきたの?なんて、妹が一緒に来たから大体の予想はついてるけど聞いてみる。

「それはだな……この僕と、リリアの婚約が決まったからだ!」

あー、やっぱり。
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