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届かない叫び<王子視点>
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なぜだ、なぜだ、なぜだ!!!
同じ問いばかりが頭の中で繰り返される。
口にも出ていたようだったのに、答える者は誰もいなかった。
あの女との婚約破棄を報告したら、国王である父は真っ蒼になって泡を吹きながら近衛兵に何かを命じた。
ほとんど悲鳴のようで聞き取れなかったが、僕はそれでなぜか、捕えられて地下牢行きになってしまった。
「何故だ!!おい、ここから出せ!!僕はっ……僕はこの国の第一王子だぞ!?王の正当な後継者だ!その僕にこんな事をして……ただで済むと思うなよ!!!」
地下牢の鉄柵を握り、ガシャガシャと揺するが、錆の匂いがきつくなるだけで開く事はない。
じめじめと湿気って陰気臭い場所だ。こんな所、一秒だって早く立ち去りたいというのに!
…………暗い。
喚いて、喚いて、幾日経っただろう?
日に日に、思考の鈍りを感じていく。
出される粗末な食事は口に合わない。というより、王子である僕が口にするものであるはずが無い。
……しかし、栄養不足で倒れる事も絶対にいやだ。番人の目を盗んで一口、二口と汁だけを舐める日が続く。
じわじわと限界が近づいて来ていた。
不意に、番人の交代以外では開かれなかった地下牢の入り口。その重々しい木扉が、ギ……と、きしんだ音を立てて開いた。
松明の光に照らされながら、一人の男が鉄柵の方へ近づいてくる。
男は番人へと優しく声を掛けた。微笑んでいるような声すら聞こえる。
番人の男が緊張でバッ、と姿勢を正しながら「――様!」と呼ぶのも聞こえた。
……どこかで聞いた名であった。どこで……
鉄柵の前に現れたのは、武装もない、武器もない、シンプルではあるが上質な衣服を纏った男だ。
これはどう見ても兵ではない。つまり……!
「ようやく僕を助けに来たのか!?何というのろまな……!!」
ダンッ、と拳で土壁を叩く。しかし、伝令者は牢の前に立ち、薄く笑うだけだった。
「いいえ、リード様。あなたは国外追放です」
「………は?」
ピシ、と。時の凍る音がした。
「先ほどの閣議で決定が下されました。今出して差し上げるので、どこへでも、好きなところへ行ってください。……この国以外の、ね」
「…………馬鹿な事を!!!」
やっと言葉の意味は飲み込んだが、到底納得いく話ではなかった。
「僕が、国を出る!?何を馬鹿な事を言っている……僕は、この国の王子だぞ!!」
「いいえ、リード様。あなたはこの国の王子ではございません。と、いうよりそもそも……」
伝令者は、嫌味なまでに整った顔をしている。その顎へ、わざとらしく奴は自分の指をあてた。
「もう、あなたの国はありませんから」
「………な、に…………?」
伝令者は柔らかな笑顔で、淡々と事実を告げていく。
王である父が、僕を見捨てて逃げたこと。
その際、権利がすべて侯爵家に渡ったということ。
そして、重臣達の多くが取り替えられ、トップの顔が変わり……
もう、ここは元のままの国ではないということ。
侯爵家……侯爵家だと…………?
「み……ミレイ、を……ミレイをここに呼んでくれ………」
「どうして?」
「婚約者だ。僕の婚約者なんだ……侯爵家の長女で……
あいつならきっと、何かの間違いだと……そう、きっと僕をここから出してくれる!!」
「リード様」
伝令者は、笑った。
「ミレイ様は、もうあなたの婚約者ではないですよ。婚約破棄をなされたでしょう?」
「ちがう。ちがうんだ……あれは誤解で……そう、誤解だ……!!」
呂律の回らない言い訳を続けていると、ふっと伝令者から笑顔が消える。
「彼女はもう、僕のものだ」
「な、それは、一体……ゲホッ……」
驚きと空腹と喉の渇きで、咳き込んでしまう。
飛沫がかからないようにか伝令者は一歩後ずさり、そのまま体の向きを少し変える。
視線だけを僕へ寄越している。なんだ、なんだ、その目は………
「そこだけは感謝してあげてもいいよ。老人達の取り決めで生まれた時から王子に縛られていた彼女は、王子のお陰で解放された。彼女はもう、僕のものだ。これから先、ずぅっとね!」
牢の中で高笑いが響く。完全にくるっと入口の方へ向きを変えて、歩き出しながら伝令者が言う。
「感謝の気持ちで、処刑から国外追放へと処罰を軽減させておきました。
バイバイ、元王子様」
僕は、全て聞き終えた後、茫然とその場に崩れ落ちた。
同じ問いばかりが頭の中で繰り返される。
口にも出ていたようだったのに、答える者は誰もいなかった。
あの女との婚約破棄を報告したら、国王である父は真っ蒼になって泡を吹きながら近衛兵に何かを命じた。
ほとんど悲鳴のようで聞き取れなかったが、僕はそれでなぜか、捕えられて地下牢行きになってしまった。
「何故だ!!おい、ここから出せ!!僕はっ……僕はこの国の第一王子だぞ!?王の正当な後継者だ!その僕にこんな事をして……ただで済むと思うなよ!!!」
地下牢の鉄柵を握り、ガシャガシャと揺するが、錆の匂いがきつくなるだけで開く事はない。
じめじめと湿気って陰気臭い場所だ。こんな所、一秒だって早く立ち去りたいというのに!
…………暗い。
喚いて、喚いて、幾日経っただろう?
日に日に、思考の鈍りを感じていく。
出される粗末な食事は口に合わない。というより、王子である僕が口にするものであるはずが無い。
……しかし、栄養不足で倒れる事も絶対にいやだ。番人の目を盗んで一口、二口と汁だけを舐める日が続く。
じわじわと限界が近づいて来ていた。
不意に、番人の交代以外では開かれなかった地下牢の入り口。その重々しい木扉が、ギ……と、きしんだ音を立てて開いた。
松明の光に照らされながら、一人の男が鉄柵の方へ近づいてくる。
男は番人へと優しく声を掛けた。微笑んでいるような声すら聞こえる。
番人の男が緊張でバッ、と姿勢を正しながら「――様!」と呼ぶのも聞こえた。
……どこかで聞いた名であった。どこで……
鉄柵の前に現れたのは、武装もない、武器もない、シンプルではあるが上質な衣服を纏った男だ。
これはどう見ても兵ではない。つまり……!
「ようやく僕を助けに来たのか!?何というのろまな……!!」
ダンッ、と拳で土壁を叩く。しかし、伝令者は牢の前に立ち、薄く笑うだけだった。
「いいえ、リード様。あなたは国外追放です」
「………は?」
ピシ、と。時の凍る音がした。
「先ほどの閣議で決定が下されました。今出して差し上げるので、どこへでも、好きなところへ行ってください。……この国以外の、ね」
「…………馬鹿な事を!!!」
やっと言葉の意味は飲み込んだが、到底納得いく話ではなかった。
「僕が、国を出る!?何を馬鹿な事を言っている……僕は、この国の王子だぞ!!」
「いいえ、リード様。あなたはこの国の王子ではございません。と、いうよりそもそも……」
伝令者は、嫌味なまでに整った顔をしている。その顎へ、わざとらしく奴は自分の指をあてた。
「もう、あなたの国はありませんから」
「………な、に…………?」
伝令者は柔らかな笑顔で、淡々と事実を告げていく。
王である父が、僕を見捨てて逃げたこと。
その際、権利がすべて侯爵家に渡ったということ。
そして、重臣達の多くが取り替えられ、トップの顔が変わり……
もう、ここは元のままの国ではないということ。
侯爵家……侯爵家だと…………?
「み……ミレイ、を……ミレイをここに呼んでくれ………」
「どうして?」
「婚約者だ。僕の婚約者なんだ……侯爵家の長女で……
あいつならきっと、何かの間違いだと……そう、きっと僕をここから出してくれる!!」
「リード様」
伝令者は、笑った。
「ミレイ様は、もうあなたの婚約者ではないですよ。婚約破棄をなされたでしょう?」
「ちがう。ちがうんだ……あれは誤解で……そう、誤解だ……!!」
呂律の回らない言い訳を続けていると、ふっと伝令者から笑顔が消える。
「彼女はもう、僕のものだ」
「な、それは、一体……ゲホッ……」
驚きと空腹と喉の渇きで、咳き込んでしまう。
飛沫がかからないようにか伝令者は一歩後ずさり、そのまま体の向きを少し変える。
視線だけを僕へ寄越している。なんだ、なんだ、その目は………
「そこだけは感謝してあげてもいいよ。老人達の取り決めで生まれた時から王子に縛られていた彼女は、王子のお陰で解放された。彼女はもう、僕のものだ。これから先、ずぅっとね!」
牢の中で高笑いが響く。完全にくるっと入口の方へ向きを変えて、歩き出しながら伝令者が言う。
「感謝の気持ちで、処刑から国外追放へと処罰を軽減させておきました。
バイバイ、元王子様」
僕は、全て聞き終えた後、茫然とその場に崩れ落ちた。
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