僕はただの妖精だから執着しないで

ふわりんしず。

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ソラの思いと想い①

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世界で1番幸せだった。お母さんが倒れる迄は。

“よく聞いて、ソラ…貴方は貴方らしく生きなさい。貴方が幸せだって、思える人生を送りなさいね”

その言葉は母の口癖で、いつも言い聞かされる聞き慣れたその言葉は…まるで遺言の様にさえ聞こえた。

もうその言葉は聞き飽きたよ。
今だって家族みんな居て幸せだよ。
だから…だから早く元気になって。

ベッドから起きられなくなり、筋力が落ちた身体はガリガリで死期の匂いを感じさせた。


“街に行ったら腕の立つお医者さんがいるんだって、直ぐ連れてくるから待ってて!”

ある朝、寒さが増し、窓の外ではチラつく雪が見えていた。きっと今日は雪が積もる、そんな空。

朝起きたら母の容態は頗る悪く、このまま帰らぬ人になるのでは…と、思えた。

息は浅く、顔面蒼白。朝食も一切口に出来ず、時折開眼した瞳は死んだ魚の様に視点が合わずどろりとしていた。


平民だから医者なんて連れて来られない、

そう頭では分かっていても、もしかしたら優しいお医者さんが事情を知って母を助けてくれるかもしれない…

なんて有りもしない希望に縋って家を飛び出した。


滑る道路に足をとられて転倒し、何度か尻餅をついた。着ていた服は唯一持っている外行きのコート。古着屋で母が選んでくれた、少しばかり使用感があった服。僕にとっては大切な宝物。 

“誰か…っ、お願いします、母を、母を助けてください!”

青色のコートは前が閉めれずボタンもチャックも付いていない為、雪が降る外では最早寒さすら防げていない。少しでも身体を冷やさない様に、胸元のコートを手で寄せて押さえた。

“助けてくださいっ!…けほっ、…母が病気なんです、誰かっ!”

“お願いします、助けて……、”


どんなに声を振り出しても、道を行き交う人々は足を止める事なく急ぎ早に去ってゆく。一瞬此方に視線を向ける人も居たが、

僕の服を上から下まで品定めした後、

顔を歪ませて、歩く速度を上げ帰路に着く。


僕の格好はどこからどう見ても貴族とは思えない出で立ちで“平民”だと分かると、皆一様に嫌な顔をする。

ここは貴族がよく通る道、表通り。





深々と降る雪は僕の着ている洋服と靴をただただ濡らし、雪が溶けて染み込み身体を重くする。

懸命に声を出したせいか、喉が枯れて咳が出る。そんな僕に向けられたのは…、

汚いものを見る様な冷たい視線だけだった。






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