僕はただの妖精だから執着しないで

ゲームスタート(入学式)

森の中で血まみれの男の子を治療した。あの男の子は無事成長しただろうか…。

ふと思い出すのは数年前に助けた男の子の事。どこの誰だか知らないから会いに行くのは難しい。あの小さな子供がちゃんと幸せになれるといいな、なんて毎日神様にお祈りをし続けた。

そして、攻略対象者であるロカとの出会いも僕にとっては大切な思い出。

家系の力を失ったロカは能力がなくなっても生きていける強さを手にいれる。敵が多い国の王様の右腕として全世界に名を轟かせる事になる。


それがゲームのシナリオ。

シナリオの舞台は、魔法科育成学園での3年間。




本当は人ではない僕が彼らと関わる事はあってはならない。そう頭では分かっているんだ…、でも、どうしても見てみたいと思ってしまった。

主人公と彼らが出会うイベント、入学式を。

僕が今いる場所は大きな木の枝の上。
ちょこんと腰掛け、下に広がる綺麗な景色…桜並木へと視線を向けた。



(そういえば少しだけゲームと違う展開があった、)

ゲームの中で見た皇子だ。彼は家族に長年虐げられ、虐待現場を偶然にも目撃したミディウス家が後に保護。世間体には行方不明という形で彼皇子の家族は後処理していて、

探す気配は無かった。

どこか知らないところで野垂れ死んでくれたらこれ幸い。

確かそんな言葉を彼の家族が口にするシーンがあった。彼等は半分とはいえ血の繋がった彼を蔑ろにし過ぎた。

だからこそ最期は無惨だった。

生きたままの父親の目を抉り腕を切り落とした。

唯一の兄弟、兄の舌を引きちぎり片耳を削いだ。



そして2人が唯一信頼していた宰相にそれらを自宅にプレゼント。宰相もまた攻略対象である彼を毛嫌いしていた。

ただ直接的な言動は見られなかったが、彼の家族の行いに苦言を呈することも無く、



素敵なプレゼントを送り付けられた一家は心身ともに壊れたという。