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(俺の代で出会えたのはただ運が良かっただけだ...)

夢物語の様に伝えられてきた尊きお方の存在
神に愛されし妖精。
妖精は人間界に干渉することは出来ず、けれど我々一族に恩恵を与えて下さった方。

決して彼等の世界を土足で踏み込んではならない、と言われ続けていた。

人間と神が住む世界が違うように、また妖精とも住む世界が異なってしまう。当たり前な話なのに...何故だろう。



あの愛おしい方に触れた瞬間から、

あの方が俺の手のひらに乗ったあの日から、


いや、違う。触れる前からかもしれない。
もしかしたらあの方が俺を認識し、綺麗な瞳に俺を移したあの瞬間から...

何かが狂い始めたのかもしれない。

暗黙の了解だった妖精と人間の、目には見えない境界線。それを今俺は、



壊すことだけを考えていた。


(運はまだ俺を見放してなんていない。これさえあれば、)

深夜、妖しげに光るソレは俺の足元へと置かれていた。失くした筈の抑制石。

それに手を伸ばし歪に笑った。






消えた能力を取り戻す方法。


誰かが試した訳じゃない。成功確率だって定かじゃないが...、

試す価値はある筈だ。

運が良ければ能力が再び自身の身体に戻るだろう。もし運が悪ければ、



(骨も肉も残らず消し飛ぶ可能性がある、な)

賭け事をする人間は好きになれないが、運に身を委ねる感覚は悪くない。高揚感だろうか。どちらに転んでも本望だとさえ思えた

(この石が抑制石ではなく、ただ力を吸い取っていたなら)

抑制石を体内に取り入れればいい。



ただ、この石その物が代々受け継がれている為

石に蓄積されている力の量は未知数だ。

体内に取り込み、爆弾のように身体が破裂しても何らおかしくはない。寧ろ命を落とす可能性の方が高いだろう。




「...ありがとう、感謝するよ」

思わず零した声は、もうそこにはいない烏に届く事はなかった。









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