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あの日、死にかけていた俺に救いの手を差し伸べてくれた人がいた。見返りも求めず

ただ重症だったはずの切り傷を治し、

名前すら名乗らずに去ってしまった人。そして、俺の心を癒してくれた人。


「皇子、まだ起きてたんですか」

「なんだお前も起きていたのか」

客間として与えられた一室に顔を出したのはロカだった。ここはミディウス家であり当主の息子、ロカに訳あって匿ってもらっている。まぁ、訳あって、と意味深に言ってみたものの至極簡単なあるある話し。

所謂俺は妾の子

現王である父が遊びで手を出して生まれ落とされたのが…俺。だから兄さんは俺を忌み嫌う。本当に現王の子か、という疑問を抱かせない父譲りの金髪、金眼。

意を唱えるものは…表面上いなかった。



だからこそ兄さんは俺に事故死という形で死んで欲しかったのだ。

おおかた俺は散歩中に魔物に遭遇して殺された、とでも言いふらしている事だろう。


実際ロカが持ってきた、号外と書かれた紙には“第二皇子死亡。ご遺体見つからず”という

なんとも愉快な出だしで綴られていて、

流石の俺も笑うしかなかった。




兄さんは…いや、父も兄さん同様ほっと胸を撫で下ろしているのだろう。本当は家族に愛されたかった。

一度でいいから俺自身を見てほしかった。


(–––––––––––––––…でも、もうそれも要らないな)







ふっ、と笑みを溢したまま読んでいた書物を閉じた。書かれている内容は魔法についてだが、既に知っている内容でただの復習にしかならなかった。

寧ろ知りたいのは書物に載っている基本的なものではなく、


「なぁロカ」

「なんですか?」

「死んだ人間を生き返らせる事は可能か」



「ネクロマンサーにでもなる気かアンタは」


当たり前の様な顔をしてソファに腰掛けたロカが、何故か俺を冷めた目で見やる。

「ネクロマンサーか…、俺でもなれるものか?」

「まず無理でしょうね。アンタは…いえ、失礼しました、貴方様は上を目指されるのでしょう」



上座に腰掛けていた俺に、ちらりと視線を寄越した後やれやれと言わんばかりにロカが呟いた。

「貴方が死んだ、と表向きなっている今が1番動きやすいんですよ。そんな訳のわからない職業になるよりアンタ…貴方様が国王になった方が現実味はあります」

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