僕はただの妖精だから執着しないで

ふわりんしず。

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話せば話すほど妖精様は色んな表情を見せてくれた。ちょっと驚いたような顔や、一生懸命真剣に話を聞いてくれる様子、時折、微笑んでくれた時には…心臓が締め付けられるほどドクドクと音を立てて痛いくらいだった。

身体の体格差はかなりあり、手のひらに座っている妖精様は俺の顔を見るため自然と上目遣いになる。

綺麗な赤色の瞳が俺を映している、と思えば泣きたくなるほど嬉しさを感じた。


我々一族の守り神は神ではなく妖精様だと、代々受け継がれひぃ爺ちゃんや父さんそして母さんも妖精様に出会えることを祈願していた。それはもう如何に妖精様が尊いか、大切な存在かをハイハイする前からずっと。耳にタコだと言わんばかりに、絵本では妖精様の描かれたものしか揃えていなかった。

神の御使い様。

そして神が唯一愛を与えられたお方。


(もし……もし許されるならずっと、)

このまま妖精様の側に居たい、そう思うのは受け継がれた血が関係しているのか

よく分からない。

ただ、今日初めて会ったのに、


手離したくないな、なんて図々しくも思ってしまった。この気持ちに名前があるなら…それはきっと口にするのも烏滸がましいもの。


妖精様の小さな手が、俺の手のひらに触れる度、

風が吹けば綺麗な髪がさらさらと靡き、

甘い香りが誘うように香る度に、




今まで感じた事のない感情がじわじわと、滲み出る。それは決して綺麗なものではなくて、


『ФШТьэΙ∧ηζνμ…?』

「あ、いえ。少し考え事をしてました…」

『?』

「もし…、妖精様が迷惑でなければまた俺と、」


俺を気遣うように見上げられた瞳。
全てを見透かすような…汚れすら知らない綺麗な瞳。

そのあまりの純粋さを表す瞳を見て、


〝また会ってくれますか〟

なんていう言葉は続かず、出かけた言葉を飲み込んだ。






「妖精様…、今日はアナタ様に出会えて本当に良かった。欲を言うなら妖精様に名前を呼んで欲しかったです」

もう大分日が落ちてきている。
ここに来た理由は何だっただろうか、と考えながらも愛おしい存在へと視線を落としたまま、

ずるいお願い事だと理解しながらも呟いた。

欲を言うならアナタに名前を呼んで、覚えて貰いたかった。

呼んだ音のを聞きたかった。



『……?』

「俺の名前は–––––––––––––––」



妖精様が俺の名前を言ってくれたとしても、それは音として認知できない。

そう頭では分かっているのに、

妖精様に俺の名前をそっと囁いた。


妖精様の中に俺の名前が残ればいいのに、



なんて思いながら。
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