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身体を起こせば、痛かった背中は嘘のように元に戻り。斬られて深手を負った傷も、斬られた時に破れた服もまるで最初から何も起こっていなかったかの様に、そこには何も残っていなかった。

確かに斬られた筈なのに

地面には血の模様を染み込ませていたはずなのに。


寝そべっていた地面にそんな痕は見当たらなかった。

まるで狐につままれた様な気分で、思考はなんども行ったり来たりする。


「夢…だったのか?」

死を覚悟した事も、
兄さんが俺を消し掛けた事も、
刺客が俺を斬った事も、

全部夢だったなら。もし、あの出来事全てが存在しないモノであったなら俺は…、


またあの場所に戻らなくては。

俺の事を必要としない、
冷たい場所へ。

家族の一挙手一投足を見て、ただビクビクと怯える生活に戻るだけ。



いつもの生活に。

(どうして…こんなに寂しいんだろう)

ただ誰かに認めて欲しかっただけ
ただ笑いかけて欲しかっただけなのに。

そして、ふと思い出すのは。



余りにも綺麗なあの・・声だった。




“生まれてきてくれてありがとう”

この世の物とは思えないほど透き通った声だった。今だって鮮明に思い出せるほど魅力的で、ずっと昔からその人を知っているかの様な安心感があった。

(あれが…夢、なわけない)

知らない誰か。

けれど寄り添ってくれた人。



そして俺に触れてくれた人。



(もしかして斬られた事は現実で、俺は本当に死にかけた…?)

行き着く答えはとてもシンプルで、

兄さんが俺を殺したいほど疎んでいた事を否定したい気持ちよりも、

遥かに上回った気持ち。

現実から目を逸らせばきっと楽だったかもしれない。それでも気付いてしまった。


あの声の持ち主が助けてくれたのかもしれない、と。
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