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誰かに頭を撫でられた気がした。
優しく気遣う様な、そんな触り方。

暖かな手はひとなでし、直ぐに離れてしまったけれど何故だか無性に空っぽな心を満たしてくれた。

死ぬ間際に生み出した夢かもしれないと思いつつ、撫でてくれた手に縋り付きたくなった。


もっと撫でてよ。

自分が生み出しだ幻覚かもしれない。

お願い抱きしめて。

ただの妄想だ。そう思うのに、


初めて与えられた温もりは、何処までも人を貪欲にさせた。満たされた筈の心が満たす前よりも枯れている気がする。

ただもう一度触れてほしい。

なんて思った。望まれて生まれてきていない俺が、そんなものを望んではいけないのに。

生まれてきた事が大罪なのに。

俺が居るだけで周りを不幸にするのに、



なのにまるでそれら全てを分かっているかの様に、頭を撫でた人は言う。

慈愛に満ちた声で、囁いた。




『生まれてきてくれてありがとう』


泣きそうになった。

俺に向けられていい言葉じゃないのに。

心から言われている様な、優しい穏やかな声。何処か透明感があって、あまりにも声音が美しい。

誰にも必要とされなかったのに。

ありがとう、なんて言葉は俺には勿体ないのに。



初めて温もりをくれた人に、感謝の意を伝えたいのに。

さっきはただただ身体が重だるく、ただ痛くて苦しいだけだったのにいつの間にかそれらは消え、

逆に今は微睡の中にいるみたい。





そしてその夢現な感覚は、何かが弾ける様な音と共に消え去った。

「…あ、れ……俺、生きてる…?」






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