僕はただの妖精だから執着しないで

ふわりんしず。

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治癒

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…………

……

重い会場のドアをメイと共に開けると、賑やかな音楽が耳に飛び込んできた。
高級そうな料理や、いつも以上に華やかな会場の飾りつけが目に入り、1週間前に戦地にいたなんて嘘みたいな光景に、呆気《あっけ》にとられる。


戦勝パーティ会場を見回すと、下級クラスの生徒はいないようだった。
そのことに、心の中で『当たり前だ』とつぶやく。

下級生であるルイーゼ達は、私たちが特別野外活動に行っていたと思っているのだから。

ちなみに私を襲った男子達は、指揮官から学園に報告され、帰還するなり塔に入れられた。だから今は不在だ。



「カミヅキ様ぁ~」
そんな台詞セリフが耳に入ってきて、自然と目が行く。

すると大きく胸の開いた、タイトな黒のロングドレスを着たFクラス講師が映った。そして、その隣にはディオン。

ディオンは品のある黒のスーツを着ていて、長い黒髪を後ろで束ねている。既に周りは女生徒だらけだ。

Fクラス講師は、大きな胸を見せつけるようにしてディオンに迫っているのに、ディオンは嫌がる様子も見せずに何やら話をしている。

服の色が同じだからか、そんな2人がとてもお似合いに見えて、思わずムッとしてしまう。

そんな時、ディオンとバチっと目が合って、思わずプイっとそっぽを向いてしまった。


再び目を向けると、もうディオンは女生徒の方を向いていた。
その事に更に怒りが湧く。


キスまでしてきたくせに!なんなのよ!
ふと、これまでのキスを思い出してしまい、そっと唇に指を当てると、顔にぼっと火がついた。

あああーー!
恥ずかしくなって脳内の私が頭を抱えて叫ぶと、次に私を殺した奴の言葉が浮かび上がった。

『あれぇ?まだ生きてんの』
『早く死んで』


……まただ。
最近ずっと、殺される直前の事ばかり思い出してしまう。



それもこれも……

長く艶のある黒いディオンの髪に目を向ける。


あの姿を目にすると、どうしても私を殺した人物を思い出してしまう。


戦争が終わったら告白しようと思っていたのに、なんかそれどころじゃなくなっちゃった……


疑いは深まる事も、解決する事もなく、ずっと平行線のまま。

やっぱり、ディオンが私を殺した犯人なんかじゃないとは思う。
でも、そう思っても疑いが完全に晴れるわけではない。

いっそのこと、全部話してしまえば楽になれるのに……
もし、本当に犯人だったら……って思うと、怖くて言えない。



「はぁー」
ため息をついて誰も居なさそうなテラスに出ると、「シエルちゃん」と呼ぶ声が聞こえた。
その声に振り返ると、派手な柄物のスーツを着たアランが映った。


「アラン……」
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