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『うっ…飲みすぎた、』
慌てて口元を押さえるのも無理はない。ビール15杯と酎ハイ3杯は飲み過ぎた。
足腰立たず、連れてきてくれた先輩には申し訳ないが誰かとどうこうなるどころではなく
なんなら俺1人ですら歩けない。
先輩は新しい彼女が欲しくて合コンをセッティングしたらしいが、俺がこんなだから渋々肩をかしてくれた。
カラオケ店を出たのは24時きっかりである。
「ほら、タクシー乗り場まで歩くから頑張れよ」
『…んー、』
「てか飲み過ぎだろ…、お前ん家より俺ん家のが近いよな–––––––––…って、あれ?」
店前で合流したメンバーと別れを告げ、先輩は俺の身体を支えながらゆっくり歩いてくれる。
昔も今も見た目に反して無駄にお人好しなのはどうやら変わらないらしい。
なんて、ぽわぽわする頭でそんな事を考えてふにゃりと笑った俺を他所に、肩を貸して歩いていた先輩の足が止まる。
…もう着いたの、…かな
ぐにゃぐにゃに揺れる視界の中、
ただ先輩を見上げたら、真っ直ぐに前を見つめていて…。
俺も釣られるように前を見た。
「迎えに来たよ、あーちゃん」
『…んー?』
あれ、おかしいな。少し離れた所に夕陽が立って、こっちを見ている…様な。
やべ。俺、マジで飲み過ぎたかなぁ
思わず目元を摩り、首を傾げるもそんな俺はお構いなしなのか幻覚の夕陽と先輩が一言二言、言葉を交わしていた。
「おいおいどんだけ心配性なんだよー。昔っから変わってねぇなぁ。そんなんじゃ、お前ら彼女も奥さんもできねぇぞ」
「余計なお世話です。それに貴方には関係ないでしょう?」
「な、…なぁ…まさかとは思うんだがまさかお前––––––––––」
何かを言い掛けた先輩の声。
けれどそれは最後まで紡がれる事なく、
「あーちゃん帰ろっか」
聴き慣れた声が俺に落とされた。そういえば俺…、夕陽に早く帰るってゆってたのに
約束守れなかったなぁ…今頃怒ってる、かな
あぁ、いや。夕陽は基本怒ったりしないよなぁ。優しいっていうか。完璧だ。
だから…この、ちょっと怒った様な顔をしている夕陽は幻覚だな。と、思えた。
そんな幻覚だと思っても、夕陽に怒った顔はして欲しくなくて…
『うん。ゆーひとかえりゅ…』
先輩から手を離して夕陽に抱きついた。
少し怒った様な。それでも心配の色を滲ませている夕陽に。
■
□
■
家に無事帰り着き、夕陽が玄関のドアを開けてくれる。かなり酔いが回った俺はタクシーを降りた後から、お姫様だっこされていて…
酔いが回って歩けないが、頭の方は酔いが冷めた。
お、おおおおおひめさまだっこ!?
当たり前のように抱き上げられて、少し…いやかなり吃驚したのだ。
そして、そんな俺を知ってか知らずか
ずっと夕陽は無言のまま。
(幻覚…じゃなかった、…迎えに来てくれたんだ)
何故か夕陽の優しさが嬉しい、と感じてしまう。だから素直に“ありがとう”と言葉にしてお礼を言いたいのに…、
気付いてしまったのだ。
た、たぶん…夕陽めちゃ怒って、る?
疑問形で内心呟いたが、ほぼほぼ断言できる。だって夕陽ずっと無言じゃん!?
普段なら何かしら夕陽から話しかけてきてくれるのに、だ。
でも、なんで…?
怒る理由には心当たりがある。
でもそんな事で夕陽が怒るんだろうか…
“あの夕陽”だぞ…?
なんでも俺に合わせてくれる夕陽が、ただ帰りが遅かったから。っていう理由だけで怒るものなのか、
「はい。着いたよ、あーちゃん」
『んぇ…?…ぇ?』
「顔真っ赤だね。相当飲んだのかな」
そっと優しくベッドに下ろされて、はっと我に返った。見慣れた自室ではなく、連れてこられた場所は…、
夕陽の自室だった。
漫画や雑誌が沢山置いてある俺の部屋とは異なり、必要最低限の物しか置いていないシンプルな部屋。
そして…夕陽の香りがするベッドに降ろされ
どきり、と心臓が跳ねる。
思わずベッドの上で身体を引いたせいか、ベッドのスプリングが軋む。
変に意識して狼狽える俺とは違い、何故か夕陽は少しだけ辛そうな顔で俺の頬を撫でた後、独り言みたく呟いた
「こんだけ酔ってたら明日には…忘れてるかな」
『…ゆーひ?』
「俺ね…ずっと、あーちゃんが好きなんだ。
あーちゃんが大事で。可愛くて、愛おしくて…、
あーちゃんとセックスしたい」
ずっと一緒で、家族みたいな存在の夕陽。
この日初めて俺は…、
俺の知らない一面を持つ、男の顔をした夕陽を知る事となった。
慌てて口元を押さえるのも無理はない。ビール15杯と酎ハイ3杯は飲み過ぎた。
足腰立たず、連れてきてくれた先輩には申し訳ないが誰かとどうこうなるどころではなく
なんなら俺1人ですら歩けない。
先輩は新しい彼女が欲しくて合コンをセッティングしたらしいが、俺がこんなだから渋々肩をかしてくれた。
カラオケ店を出たのは24時きっかりである。
「ほら、タクシー乗り場まで歩くから頑張れよ」
『…んー、』
「てか飲み過ぎだろ…、お前ん家より俺ん家のが近いよな–––––––––…って、あれ?」
店前で合流したメンバーと別れを告げ、先輩は俺の身体を支えながらゆっくり歩いてくれる。
昔も今も見た目に反して無駄にお人好しなのはどうやら変わらないらしい。
なんて、ぽわぽわする頭でそんな事を考えてふにゃりと笑った俺を他所に、肩を貸して歩いていた先輩の足が止まる。
…もう着いたの、…かな
ぐにゃぐにゃに揺れる視界の中、
ただ先輩を見上げたら、真っ直ぐに前を見つめていて…。
俺も釣られるように前を見た。
「迎えに来たよ、あーちゃん」
『…んー?』
あれ、おかしいな。少し離れた所に夕陽が立って、こっちを見ている…様な。
やべ。俺、マジで飲み過ぎたかなぁ
思わず目元を摩り、首を傾げるもそんな俺はお構いなしなのか幻覚の夕陽と先輩が一言二言、言葉を交わしていた。
「おいおいどんだけ心配性なんだよー。昔っから変わってねぇなぁ。そんなんじゃ、お前ら彼女も奥さんもできねぇぞ」
「余計なお世話です。それに貴方には関係ないでしょう?」
「な、…なぁ…まさかとは思うんだがまさかお前––––––––––」
何かを言い掛けた先輩の声。
けれどそれは最後まで紡がれる事なく、
「あーちゃん帰ろっか」
聴き慣れた声が俺に落とされた。そういえば俺…、夕陽に早く帰るってゆってたのに
約束守れなかったなぁ…今頃怒ってる、かな
あぁ、いや。夕陽は基本怒ったりしないよなぁ。優しいっていうか。完璧だ。
だから…この、ちょっと怒った様な顔をしている夕陽は幻覚だな。と、思えた。
そんな幻覚だと思っても、夕陽に怒った顔はして欲しくなくて…
『うん。ゆーひとかえりゅ…』
先輩から手を離して夕陽に抱きついた。
少し怒った様な。それでも心配の色を滲ませている夕陽に。
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家に無事帰り着き、夕陽が玄関のドアを開けてくれる。かなり酔いが回った俺はタクシーを降りた後から、お姫様だっこされていて…
酔いが回って歩けないが、頭の方は酔いが冷めた。
お、おおおおおひめさまだっこ!?
当たり前のように抱き上げられて、少し…いやかなり吃驚したのだ。
そして、そんな俺を知ってか知らずか
ずっと夕陽は無言のまま。
(幻覚…じゃなかった、…迎えに来てくれたんだ)
何故か夕陽の優しさが嬉しい、と感じてしまう。だから素直に“ありがとう”と言葉にしてお礼を言いたいのに…、
気付いてしまったのだ。
た、たぶん…夕陽めちゃ怒って、る?
疑問形で内心呟いたが、ほぼほぼ断言できる。だって夕陽ずっと無言じゃん!?
普段なら何かしら夕陽から話しかけてきてくれるのに、だ。
でも、なんで…?
怒る理由には心当たりがある。
でもそんな事で夕陽が怒るんだろうか…
“あの夕陽”だぞ…?
なんでも俺に合わせてくれる夕陽が、ただ帰りが遅かったから。っていう理由だけで怒るものなのか、
「はい。着いたよ、あーちゃん」
『んぇ…?…ぇ?』
「顔真っ赤だね。相当飲んだのかな」
そっと優しくベッドに下ろされて、はっと我に返った。見慣れた自室ではなく、連れてこられた場所は…、
夕陽の自室だった。
漫画や雑誌が沢山置いてある俺の部屋とは異なり、必要最低限の物しか置いていないシンプルな部屋。
そして…夕陽の香りがするベッドに降ろされ
どきり、と心臓が跳ねる。
思わずベッドの上で身体を引いたせいか、ベッドのスプリングが軋む。
変に意識して狼狽える俺とは違い、何故か夕陽は少しだけ辛そうな顔で俺の頬を撫でた後、独り言みたく呟いた
「こんだけ酔ってたら明日には…忘れてるかな」
『…ゆーひ?』
「俺ね…ずっと、あーちゃんが好きなんだ。
あーちゃんが大事で。可愛くて、愛おしくて…、
あーちゃんとセックスしたい」
ずっと一緒で、家族みたいな存在の夕陽。
この日初めて俺は…、
俺の知らない一面を持つ、男の顔をした夕陽を知る事となった。
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