ロードノベル 死ねないレグノと生きたいマーロ

うさみかずと

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平等に溢れた世界

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 マーロは小さく拳を空に突き上げてから側車に乗り込むともたれかかって最後の水を飲みほした。

 レグノがこの国に滞在するための書類を書き終わると正式に滞在が認められ門が開けられた。

「ねぇレグノ。私シャワーを浴びたいわ、お腹もすいたし、レストランに行くのもいいわね」

「それはよかった。でも資金は限られているから、高いホテルには泊まれないし、豪遊もできない。あくまでも食料と燃料の補給を最優先にして、それ以外は使わないよ。あとマーロ側車から降りて」

 夢見心地で一向に降りる気配のしないマーロに呆れていた。


 ふたりはいくつかの簡単な質問に答え一日の滞在と国での物々交換の許可を得た。

 この国の紙幣をもたないふたりにとって物々交換が出来なければ結局野宿することになるため、重要な滞在条件のひとつだ。

 しかし二人は幸運だった。

 国によっては何時間と待たされた挙句、滞在許可が下りないことがあるのにこの国では魔力制限の承認と五分程度の申請で手続きが終わり、特にしつこい身体調査などはなかった。

 大きく変わったことと言えばこの国に滞在する間は指定された服を着なければいけないということだけだった。

 男の子は青、女の子は赤。

 他の例外は認められない。しかしこの国のルールさえ従っていれば、ありがたいことに親切な国家はサイドカーのメンテナンスもしてくれるという。

「さて、とりあえずどうする」

 レグノは上機嫌なマーロに尋ねた。

「ホテルに行きましょう。そしてシャワーを浴びるの」

 レグノは頷いて歩き出した。

 といってもこの国には滞在用で使用するホテルがひとつしかないらしく、値段も特別高いわけでもない。

 レグノは一か月ほど前に立ち寄った国でもらった赤いバッチと青いバッチを宿泊代として納め思いのほか喜ばれたことが可笑しくて微笑んだ。

 よくみればフロントには同じような顔の同じ服を着たスタッフが鎮座し、スムーズに仕事をこなしている。

 レグノとマーロは同じ部屋に入った。ベッドはツインで思っていたよりきれいな部屋だった。マーロは部屋に入るなり服を脱ぎ捨てて、レグノはとっさに後ろを向いたが、マーロはそんなことをおかまいなしにシャワー室に入っていく。

「服は脱衣所で脱ぎなよ」

「うるさいわね別にいいじゃない、そんなことよりバスローブを持ってきて」

「あぁ、もしかしてこの前の国でのことまだ怒ってるの?」

「知らない」

 シャワーの音が聞こえてくる。レグノは小さくため息をついてバスローブを脱衣所に運んだ。

 それからレグノはマーロがシャワーを浴び終わるまでの間、ウエストバックからペンと古代石板のように分厚い日記帳を出して今日の出来事を記録した。今日の天気、滞在期間、マーロの機嫌その他もろもろ。

「今日も良い一日でした」

 最後に感想を一言だけ記す。

 これまでに記載してある国は百をこえている。レグノは滞在した国のイメージを用いてオリジナルのラベリングをしていた。その中には都合の良い友達の国や嘘を知らない国などユニークな名前が連なっていて、そこで起きた出来事が事細かに描写されていた。「賢い奴隷たちの国」レグノがそう書き記した国の詳細は十ページを超えている。滞在期間は三ヶ月。旅人の自分が市民権を得て、定職に就き国民たちと変わらない生活を送っていた日々の記録。

「おっといけない」

 レグノは日記に手をかけることをやめ、ホテルマンを呼ぶと洗濯サービスを頼んだ。ラッキーなことに旅人は無料でやってくれるという。しかも明日の朝には間に合わせると約束してくれた。

「なにかお礼を」

 レグノはポケットからチップを取り出し渡そうとしたがホテルマンはこれを断った。

「私どもの国では個人にそういった行為自体が禁止されているのです」

「しかし、対価に対してのお礼を……」

「いえいえ、感謝だけで充分でございます」

 レグノは理解すると頭を下げた。

「お気持ちだけ頂きます」

 ホテルマンはレグノに笑みを返すと一礼して部屋を出て行った。シャワーの音だけが部屋に響き渡りおもむろ身支度用の鏡にうつる自分をみながら腰にあるハンドガンに手を伸ばした。素早く腰から抜くと構える。それを何度も繰り返して精度を上げる。レグノの日課だ。本当は銃なんて好きではないし、いつどんな敵が襲ってきても死ぬことはないのだが、浪漫のために余念はない。

 レグノのハンドガンは殺傷能力は低いが比較的扱いやすい拳銃で命中精度がいい。レグノが弾倉から弾丸をだして、別の弾倉に詰めなおそうとしたときバスローブのマーロがシャワー室からでてきた。

「さっぱりしたかい?」

「おかげさまで」

 マーロは満足そうに言った。ガラス越しに外を見て

「ねえやっぱり変じゃない? なんでみんな同じ服着ているの?」

「さぁ。そういう文化なんじゃないの」

 レグノは興味がなさそうに言って、

「あなたってわびさびってものがないわね」

 マーロが皮肉っぽく答える。沈黙あと続けて

「お腹すいた」

「マーロは自由だね。レストランに行くならこれを着ないと」

 レグノは入国管理局からもらった赤い服をマーロに手渡す。彼女は少し嫌がって

「私って赤色嫌いなのよね」

「わがまま言わないの。それとも今日はご飯抜きかな」

 そういうとマーロは大人しく赤い服を受け取った。

 どんなに嫌でもごはんにありつけるなら背に腹は代えられないって感じだった。 
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