2 / 5
平等に溢れた世界
1
しおりを挟む
道の真ん中を一台のサイドカーが走っていた。道といってもただ土を固めてだけの草が膝下まで生い茂げる草原のような道だった。
サイドカーはエンジンをふかしながら、かなり速い速度で走行しているが、がたがたと揺れるのでときおり左右にぐらついてしまう。そのとき運転手は慣れた手つきでハンドルをきり、まっすぐに修正した。
その運転手は華奢な体を隠すように厚いジャケットを身に着けていた。肩には使い古したウエストバックが斜めがけにかけてある。腰につけたベルトに小物をいれる袋がついていて、横にはハンドガンのホルスターをつけている。その中には一丁の自動式拳銃が収まっていた。
ヘルメットはつけておらず、頭には赤いバンダナ、首には赤いマフラーが巻かれてあった。通常より長いタイプのマフラーだから防寒用に口を覆うことができる。ただ今はあまりが風に吹かれて蛇のように動いている。目を守るゴーグルの下の表情はまだ幼さを残していた。大きくて丸い目が特徴的な当たり障りのない顔で、見る人にとっては美形ともとれる顔つきだが、今は眠そうな顔をしていた。
となりに座る女の子が運転手に言った。
「今度はどこに向かっているの? 私はレグノがやってることがいっこうに理解できないわ」
レグノと呼ばれた運転手は目線を変えずこう答えた。
「それはそうだろうね。でもあそこに国があるからそこに行ってみようと思う」
ふたりが進む先に住宅地のような家が建っていた。その手前に門があり、何人か人が立っている。
「宿なしはいやよ。野宿はもうこりごり」
「そうだね、でも探し物が見つかるかも知れない」
女の子がため息をもらしたその瞬間、サイドカーの速度が落ち始めた。
「ガス欠かも」
「最悪ね」
「最悪とは言い切れないんじゃないかな、時には立ち止まることも大切なことさ」
「……」
「怒らないで、マーロ」
レグノの少しも悪びれていない様子にマーロと呼ばれた女の子が呆れた口調でつぶやく。
「これで何度目よ、なんで給油のランプを確認しないの? あの国にスタンドがなかったらどうするつもり?」
「どうしようか。そのときはそうだな……もういっそあの国に住むってのはどうかな?」
失速したサイドカーは次第に地面との摩擦に負けてゆるやかに停止する。停止した瞬間にレグノは何事もなかったかのように運転席をおり原因を探るためサイドカーのお尻にまわった。
「ねぇ側車からおりてくれないかな」
レグノの問いかけにも振り返らず正面を向き、なげやりな態度のまま口調を荒げた。
「いやよ、だって私はなんにも悪くないもの」
「そうだね、マーロは悪くない。じゃあいっそここでテントを張ろうか?」
楽しそうにそう提案してきたレグノに腹が立ったマーロは側車から降り、顔を真っ赤にしながらずかずかと近づいてくる。
「私はもう野宿はいやよ!」
「はぁじゃあ、どうしようか?」
「あの門があるところまで押すわ!」
マーロはそう言ってサイドカーのお尻を力強く推し始める。
「もう早く手伝ってよ」
そう急かされたレグノは微笑んでサイドカーのお尻を押し始めた。
門の前までサイドカーをふたりで押してようやくたどり着いた。へとへとのふたりを見て赤い服を着た門番のおじさんは笑いながら水を持ってきてくれた。
「ごきげんよう。ボクちゃんたちこの町には観光かな?」
「いいえ、燃料と食料の補充をお願いしたいのですが」
レグノは大人のように落ち着いた口ぶりで用件を言うものだから門番のおじさんは驚いたように言った。
「そうかきみたちはその年でディアスポラなのか」
「えぇ故郷を焼かれまして……」
「そうか辛かったね、道中も大変だったでしょう」
「でもなれたわ。それに私の故郷を焼いたのはレグ……」
淡々と話したレグノに同情するおじさんたちをしり目にマーロが余計な口を開こうとする。慌てて口に封じたレグノは微笑んだ。
「この前と言ってることと違うじゃないか」
「あら私は気まぐれなのよ」
「うん、どうした?」
「いえなんでも」
「そうか、よしそういうことなら少しの間この国に滞在すればいい」
「それはありがたい」
「おう。待ってな、いま申請書を持ってきてやる、あっところで二人とも魔法は使える?」
「僕はからっきしですけど、彼女は初級魔法を一通り」
「ほう。まだ小さいのにすごいな」
マーロは褒められて誇らしげに胸をはる。
「それじゃあお嬢ちゃん、悪いんだけど魔力を預からせてもらうよ。この書類に手を置いてくれ」
「えっ、どうして」
首を傾げるマーロにおじさんは微笑んで
「そりゃここが平等国家だからさ。ささ、はやくしとくれ、なぁに中では魔術が必要ないくらい治安が良いから大丈夫だよ」
目の前に置かれた書類は魔法紙で作られており、魔力をいつまで預かるかや、紛失保障の仕方など事細かく書かれている。
「マーロここは彼に従った方が良い、そうじゃないと先には進めないよ」
レグノはもやもやしているマーロを促して、書類に彼女の手をかざさせた。
サイドカーはエンジンをふかしながら、かなり速い速度で走行しているが、がたがたと揺れるのでときおり左右にぐらついてしまう。そのとき運転手は慣れた手つきでハンドルをきり、まっすぐに修正した。
その運転手は華奢な体を隠すように厚いジャケットを身に着けていた。肩には使い古したウエストバックが斜めがけにかけてある。腰につけたベルトに小物をいれる袋がついていて、横にはハンドガンのホルスターをつけている。その中には一丁の自動式拳銃が収まっていた。
ヘルメットはつけておらず、頭には赤いバンダナ、首には赤いマフラーが巻かれてあった。通常より長いタイプのマフラーだから防寒用に口を覆うことができる。ただ今はあまりが風に吹かれて蛇のように動いている。目を守るゴーグルの下の表情はまだ幼さを残していた。大きくて丸い目が特徴的な当たり障りのない顔で、見る人にとっては美形ともとれる顔つきだが、今は眠そうな顔をしていた。
となりに座る女の子が運転手に言った。
「今度はどこに向かっているの? 私はレグノがやってることがいっこうに理解できないわ」
レグノと呼ばれた運転手は目線を変えずこう答えた。
「それはそうだろうね。でもあそこに国があるからそこに行ってみようと思う」
ふたりが進む先に住宅地のような家が建っていた。その手前に門があり、何人か人が立っている。
「宿なしはいやよ。野宿はもうこりごり」
「そうだね、でも探し物が見つかるかも知れない」
女の子がため息をもらしたその瞬間、サイドカーの速度が落ち始めた。
「ガス欠かも」
「最悪ね」
「最悪とは言い切れないんじゃないかな、時には立ち止まることも大切なことさ」
「……」
「怒らないで、マーロ」
レグノの少しも悪びれていない様子にマーロと呼ばれた女の子が呆れた口調でつぶやく。
「これで何度目よ、なんで給油のランプを確認しないの? あの国にスタンドがなかったらどうするつもり?」
「どうしようか。そのときはそうだな……もういっそあの国に住むってのはどうかな?」
失速したサイドカーは次第に地面との摩擦に負けてゆるやかに停止する。停止した瞬間にレグノは何事もなかったかのように運転席をおり原因を探るためサイドカーのお尻にまわった。
「ねぇ側車からおりてくれないかな」
レグノの問いかけにも振り返らず正面を向き、なげやりな態度のまま口調を荒げた。
「いやよ、だって私はなんにも悪くないもの」
「そうだね、マーロは悪くない。じゃあいっそここでテントを張ろうか?」
楽しそうにそう提案してきたレグノに腹が立ったマーロは側車から降り、顔を真っ赤にしながらずかずかと近づいてくる。
「私はもう野宿はいやよ!」
「はぁじゃあ、どうしようか?」
「あの門があるところまで押すわ!」
マーロはそう言ってサイドカーのお尻を力強く推し始める。
「もう早く手伝ってよ」
そう急かされたレグノは微笑んでサイドカーのお尻を押し始めた。
門の前までサイドカーをふたりで押してようやくたどり着いた。へとへとのふたりを見て赤い服を着た門番のおじさんは笑いながら水を持ってきてくれた。
「ごきげんよう。ボクちゃんたちこの町には観光かな?」
「いいえ、燃料と食料の補充をお願いしたいのですが」
レグノは大人のように落ち着いた口ぶりで用件を言うものだから門番のおじさんは驚いたように言った。
「そうかきみたちはその年でディアスポラなのか」
「えぇ故郷を焼かれまして……」
「そうか辛かったね、道中も大変だったでしょう」
「でもなれたわ。それに私の故郷を焼いたのはレグ……」
淡々と話したレグノに同情するおじさんたちをしり目にマーロが余計な口を開こうとする。慌てて口に封じたレグノは微笑んだ。
「この前と言ってることと違うじゃないか」
「あら私は気まぐれなのよ」
「うん、どうした?」
「いえなんでも」
「そうか、よしそういうことなら少しの間この国に滞在すればいい」
「それはありがたい」
「おう。待ってな、いま申請書を持ってきてやる、あっところで二人とも魔法は使える?」
「僕はからっきしですけど、彼女は初級魔法を一通り」
「ほう。まだ小さいのにすごいな」
マーロは褒められて誇らしげに胸をはる。
「それじゃあお嬢ちゃん、悪いんだけど魔力を預からせてもらうよ。この書類に手を置いてくれ」
「えっ、どうして」
首を傾げるマーロにおじさんは微笑んで
「そりゃここが平等国家だからさ。ささ、はやくしとくれ、なぁに中では魔術が必要ないくらい治安が良いから大丈夫だよ」
目の前に置かれた書類は魔法紙で作られており、魔力をいつまで預かるかや、紛失保障の仕方など事細かく書かれている。
「マーロここは彼に従った方が良い、そうじゃないと先には進めないよ」
レグノはもやもやしているマーロを促して、書類に彼女の手をかざさせた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう
まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥
*****
僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。
僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる