大正魔術英雄譚

うさみかずと

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大正美人の敵討

皮肉

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 床に転がっていた新聞を拾い上げカウツはたばこをふかす。

『多産と貧困』と言ったタイトルに目を奪われ活字を眺めることに真剣になる。

「国民皆婚の社会が聞いてあきれる。しかし仕方もないか。この世界の下流階級の類にはいわゆる娯楽がない。大きな戦争の後には婚礼数と出生率が上昇するが、避妊魔法もないのなら子どもを作り過ぎて貧困に陥るなんて少し考えればわかるはずだろうに」

 カウツは大きくため息をついて目線を上げた。

 たか子はセーラー服とスカートを脱ぎ終えて、下着姿のまま困惑したようにソファーに座っている。

 「人生とは皮肉なものだよ。順風満帆な生活をしていた人間が一度騙されただけでとことん落ちるのだから、でもお前さんは運がいいほうだと思うよ。たった一度の辱めを受けただけでまた豊かな生活を送れるようになるのだから」

 含み笑いを浮かべるカウツにたか子はソファーから腰を上げ目の前に立った。

 乳バンドのフックを外す両手が震えている。

 羞恥と恐怖と戸惑いで混沌とした顔で俯き、その表情は今にも崩れ落ちてしまいそうだ。

「うぅ……お父様ぁうぅえぇん……うわぁん」

 床に落とした乳バンドのかわりに隠した両腕が切なげに、両足ががくがくと震えだしている。

「アハハハハハッハハハッハハ、もういいもういい。もうじゅうぶんだ」

 カウツは笑いながら立ち上がって上に羽織っていた黒のジャケットをたか子に投げわたし背中を向ける。

 何が起こったのか分からずに立ち尽くすたか子をしり目に腹を抱えながら笑うカウツの姿はまさに狂人だった。

「あ、あの……」

「すまないね、もう服を着ていいよ。それにしてもこの世界の女性は真面目だなぁ。人を疑うということがまるでない。しかしお前さん自分の価値が五百円もすると本気で思っていたのかい? 吉原には一晩数円で身体を売る遊女もいるのに」

「私は別にそういうわけでは……」

 ジャケットを羽織り顔を赤らめたたか子はそそくさと衣服を拾い上げる。

「では報酬は?」

「あぁそれはお嬢さんの復讐相手からせしめるから心配しなさんな。それにお嬢さんからの報酬は頂いたからね」 

 わけも分からず口を閉ざしたたか子にカウツは振り返り言った。

「俺は女のむせび泣く顔が大好きなんだ」

 たか子の顔はまだ歪んだままだった。

 
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