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大正美人の敵討
覚悟あるならわかるよな
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探偵事務所の文字の前には骨川という名前が消えかけていた。少女を出迎えた広間の棚には怪しげな本や歴代のコレクターに愛でられたであろう様々な人形が博物館の展示の様に並んでいる。これだけの数を綺麗に整頓するのは一仕事だろう。
カウツは薄暗い部屋の明かりをともし、窓を開ける。
タングステン電球が切れかかって、広間を照らすには太陽の光も心もとない。
少女はカウツがお茶を用意している間、可愛らしい人形たちを拝見していた。
薄暗さに目が慣れる頃には、それなりに人形の細かな表情や色彩がはっきり見て取れるようになる。
幼いころには、その可愛らしさしか見えていなかったが、教養を得てからは人形の調度の緻密な細工に魅力を感じるようになった。
ふと棚に並べられた一体のひな人形の瞳がこちらを見つめている気がして、少女は手に取った人形をゆっくり戻した。
「学生さんお名前は?」
「たか子です、楠田たか子」
「それでどうなすったたか子さん?」
お茶を呼ばれソファーに腰を下ろしたたか子は、一度息をついて懐から鋭利な短刀をテーブルに置いた。
「今日はお願いがあってまいりました」
カウツはテーブルに置かれた短刀を眺めながら笑止する。
「復讐か、やけに胸元がいびつだったからもしやと思ったが、心躍やかじゃないな。脅しのつもりでそれを出したのかい?」
口調をすごめて睨みを利かせる。たか子はハッとした表情になってから首を横に振り身振り手振りで話始める。
「いえ、こ、これは誤解なのです。ここにたどり着くまでその……いろいろあって、でもお、お話を、あくまでお話を聞いていただきたくて」
「何が誤解だ、脅す気満々じゃないか」
「申し訳ありません」
深々と頭を下げるたか子にカウツはお茶をすすめた。彼女が素直にお茶をカップに口をつけると、カウツはたばこに火をともす。
「で、ご用件は?」
「私の……私の父の仇をうってください」
「復讐ね、まぁ俺も何回か依頼されたこともあるけど、あんなもの果たしたところで一時の気晴らしだ。あまり気持ちの良いものじゃない。悪いことは言わないからやめときな」
「気晴らしなんかじゃありませんわ、私は人生を捨ててでも殺した相手がいるのです」
「ほう」
「私はあの外道のせいで大好きな家族を失ったのです」
たか子の鬼気迫る眼力にカウツはたばこを灰皿に捨てた。
「私の父は貿易商を営んでいました。しかし親友に騙され多額の借金を背負ってしまいました。父は真面目な人だったのでその責任を一人で背負って自決しました。借金は父の生命保険で返済されましたが、父がいなくなった会社を乗っ取るように実権を握ったのはその親友だったのです。父は騙されました」
「まぁあるあると言えばあるあるだな」
大方予想通りの展開にカウツは少し残念そうに二本目のタバコに手をかける。
「女学園を卒業したら私はあの憎き外道に娶られてしまいます。断れば外国に売ると言われました」
「あらま、それはそれはご不幸なこった。ところでたか子さんはいくらで俺を雇おうっていうの?」
「えっ」
「おいおい、お嬢様成果報酬のことだよ。金だ金。いくら払えるの?」
「……ここに50円あります」
テーブルに広げられた札束をカウツは一様に眺めたあと、ため息をついて突っ返す。
「500円だ」
「えっ」
たか子は目を丸くする。カウツは構わずタバコの煙を天井に吐いた。
「困ってますって顔をする輩はいつもそう、そうやっていつでも誰かが手を差し伸べてくれると思ってる。こっちも慈善事業じゃないんでね」
「そ、そんな。ここに来るまでだって大変で、いろんな人に騙されて……もうお金もこれしか……」
「だから甘ちゃんだって言うんだ。世間知らずのお嬢様が人生をとか言ってたって捨てる覚悟すらない」
「ち、違います。私は本当に覚悟を持って……」
「違うって何が違うんだい? 言葉だけじゃ信用ならんなぁ……でももしお前さんの言う覚悟が証明できるなら慈善活動してやってもいいよ」
「……どうすればよろしいですか?」
たか子の恐々とする顔を凝視してから、カウツは含み笑いを浮かべる。
「脱げ、覚悟があればその代償は払えるはずだ」
カウツは薄暗い部屋の明かりをともし、窓を開ける。
タングステン電球が切れかかって、広間を照らすには太陽の光も心もとない。
少女はカウツがお茶を用意している間、可愛らしい人形たちを拝見していた。
薄暗さに目が慣れる頃には、それなりに人形の細かな表情や色彩がはっきり見て取れるようになる。
幼いころには、その可愛らしさしか見えていなかったが、教養を得てからは人形の調度の緻密な細工に魅力を感じるようになった。
ふと棚に並べられた一体のひな人形の瞳がこちらを見つめている気がして、少女は手に取った人形をゆっくり戻した。
「学生さんお名前は?」
「たか子です、楠田たか子」
「それでどうなすったたか子さん?」
お茶を呼ばれソファーに腰を下ろしたたか子は、一度息をついて懐から鋭利な短刀をテーブルに置いた。
「今日はお願いがあってまいりました」
カウツはテーブルに置かれた短刀を眺めながら笑止する。
「復讐か、やけに胸元がいびつだったからもしやと思ったが、心躍やかじゃないな。脅しのつもりでそれを出したのかい?」
口調をすごめて睨みを利かせる。たか子はハッとした表情になってから首を横に振り身振り手振りで話始める。
「いえ、こ、これは誤解なのです。ここにたどり着くまでその……いろいろあって、でもお、お話を、あくまでお話を聞いていただきたくて」
「何が誤解だ、脅す気満々じゃないか」
「申し訳ありません」
深々と頭を下げるたか子にカウツはお茶をすすめた。彼女が素直にお茶をカップに口をつけると、カウツはたばこに火をともす。
「で、ご用件は?」
「私の……私の父の仇をうってください」
「復讐ね、まぁ俺も何回か依頼されたこともあるけど、あんなもの果たしたところで一時の気晴らしだ。あまり気持ちの良いものじゃない。悪いことは言わないからやめときな」
「気晴らしなんかじゃありませんわ、私は人生を捨ててでも殺した相手がいるのです」
「ほう」
「私はあの外道のせいで大好きな家族を失ったのです」
たか子の鬼気迫る眼力にカウツはたばこを灰皿に捨てた。
「私の父は貿易商を営んでいました。しかし親友に騙され多額の借金を背負ってしまいました。父は真面目な人だったのでその責任を一人で背負って自決しました。借金は父の生命保険で返済されましたが、父がいなくなった会社を乗っ取るように実権を握ったのはその親友だったのです。父は騙されました」
「まぁあるあると言えばあるあるだな」
大方予想通りの展開にカウツは少し残念そうに二本目のタバコに手をかける。
「女学園を卒業したら私はあの憎き外道に娶られてしまいます。断れば外国に売ると言われました」
「あらま、それはそれはご不幸なこった。ところでたか子さんはいくらで俺を雇おうっていうの?」
「えっ」
「おいおい、お嬢様成果報酬のことだよ。金だ金。いくら払えるの?」
「……ここに50円あります」
テーブルに広げられた札束をカウツは一様に眺めたあと、ため息をついて突っ返す。
「500円だ」
「えっ」
たか子は目を丸くする。カウツは構わずタバコの煙を天井に吐いた。
「困ってますって顔をする輩はいつもそう、そうやっていつでも誰かが手を差し伸べてくれると思ってる。こっちも慈善事業じゃないんでね」
「そ、そんな。ここに来るまでだって大変で、いろんな人に騙されて……もうお金もこれしか……」
「だから甘ちゃんだって言うんだ。世間知らずのお嬢様が人生をとか言ってたって捨てる覚悟すらない」
「ち、違います。私は本当に覚悟を持って……」
「違うって何が違うんだい? 言葉だけじゃ信用ならんなぁ……でももしお前さんの言う覚悟が証明できるなら慈善活動してやってもいいよ」
「……どうすればよろしいですか?」
たか子の恐々とする顔を凝視してから、カウツは含み笑いを浮かべる。
「脱げ、覚悟があればその代償は払えるはずだ」
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