大正魔術英雄譚

うさみかずと

文字の大きさ
上 下
2 / 4
大正美人の敵討

なんの了見だい?

しおりを挟む
 麹町を出た時には、小雨は降りやみ、家々の屋根に重くのしかかっていた雲のは晴れ間が見えていた。

 車はゆるりらと進んでいく。そのすぐ近くを先を急ぐ車たちが睨みを利かせながら横をぐんぐん追い越していった。

「あのぁお客様、いい加減にしてくださいますか?」

「なにがだ」

 運転手は大きくため息をつく。しかしそれには理由があった。

「何って、さっきから同じ場所をぐるぐると回るだけでちっとも降りてはくれないではないですか?」

「口答えをするな、金なら払うし、それに地図ではこの辺をしめしているのだ」

 運転手はハンドルを切りながら呆れたように座席を座り直す。半分諦めた口調で、

「ですからその地図をわたくしめにお見せくださいな。きっとその方が早いと思われますよ」

 運転手の提案はもっともだ。しかしこの男。骨川カウツは頑なに首を縦に振らない。それどころか、

「貴様のようなむさくるしい輩に俺の私物を触らせるか、文句を言わずに進め」

 悪態をつく始末だ。

「……」

『ふん、生意気な態度で接しやがって、俺の世界だったら三回は殺しているぞ』

 カウツは不機嫌に窓の外を眺めていると、車は急に進行を止め、路肩につける。

「おい勝手にとまるな」

「もう限界でございます。お代は結構なので降りてください!」

 運転手の返答に虚をくらったが、その声の圧迫感に根負けしそそくさと車を降りた。

「もう二度とご利用なさらないで!」

 ばたんと閉まるドアに、立ち去る車を眺めながら、

「それはこっちのセリフだ、タコスケ!」

 と人々の往来も関係なく叫んだ。

「くそ! また迷った。この世界の地形は分かりにくすぎる!」

 行き場のない怒りを地面にぶつけ地団太を踏むカウツを人はみな避けて歩みを進めていく。

「ここにカフェがあって、大学が……」

「もし」

「うるさいな、今はそういう気分じゃないんだ、客引きはすっこんでろ!」

「あ、いえそうではなく、その大丈夫でしょうか? さきほどタクシーに乗られていた殿方ですよね、この通りをぐるぐると走られていたことを見ておりましたから、もしやお困りだと思いまして」

「なにぃ」

 男は振り返り声の主を視界に収めた。長い髪をポニー・テールに結っており、名門女学校のセーラー服が色白の顔立ちに良く似合った。

 しかしそれよりも目を引いたの純朴で大きな瞳だった。この世界の美人の定義として切れ長の瞳や華奢な身体とは少し外れてはいるが、健康的な体躯の彼女の立ち振る舞いはまさしく大正美人に相応しい。

「ふむ、ふむ。ほう~なるほど……」

 カウツは指で丸を作り右目にあてると彼女の下から上まで眺め小刻みに頷いた。

「もし、何をやっておられますの?」

「おっと、こいつは失敬。実は家に帰れなくなってな、困っていたところだ」

 カウツは大人しく手に持った地図を手渡す。手渡された彼女は数秒眺めた後不思議そうに何度も首を傾げた。

「もし、この地図が正しければ目的地はここになりますが」

 指さした場所を目で追うと古びた二階建ての建物が見える。下の階はカフェの看板が出ており、上の階には玄関先に擦れた文字で【探偵事務所】とそう書かれていた。

「あぁそうかこれが俺ん家だ」

「はぁ」

「いやぁ助かったよ。ありがとうお嬢さん。ところでさぁお前さんこんな明るいうちから俺にどういう了見だい?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

亡霊剣士の肉体強奪リベンジ!~倒した敵の身体を乗っ取って、最強へと到る物語。

円城寺正市
ファンタジー
勇者が行方不明になって数年。 魔物が勢力圏を拡大し、滅亡の危機に瀕する国、ソルブルグ王国。 洞窟の中で目覚めた主人公は、自分が亡霊になっていることに気が付いた。 身動きもとれず、記憶も無い。 ある日、身動きできない彼の前に、ゴブリンの群れに追いかけられてエルフの少女が転がり込んできた。 亡霊を見つけたエルフの少女ミーシャは、死体に乗り移る方法を教え、身体を得た彼は、圧倒的な剣技を披露して、ゴブリンの群れを撃退した。 そして、「旅の目的は言えない」というミーシャに同行することになった亡霊は、次々に倒した敵の身体に乗り換えながら、復讐すべき相手へと辿り着く。 ※この作品は「小説家になろう」からの転載です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

パーティーを追放された落ちこぼれ死霊術士だけど、五百年前に死んだ最強の女勇者(18)に憑依されて最強になった件

九葉ユーキ
ファンタジー
クラウス・アイゼンシュタイン、二十五歳、C級冒険者。滅んだとされる死霊術士の末裔だ。 勇者パーティーに「荷物持ち」として雇われていた彼は、突然パーティーを追放されてしまう。 S級モンスターがうろつく危険な場所に取り残され、途方に暮れるクラウス。 そんな彼に救いの手を差しのべたのは、五百年前の勇者親子の霊魂だった。 五百年前に不慮の死を遂げたという勇者親子の霊は、その地で自分たちの意志を継いでくれる死霊術士を待ち続けていたのだった。 魔王討伐を手伝うという条件で、クラウスは最強の女勇者リリスをその身に憑依させることになる。 S級モンスターを瞬殺できるほどの強さを手に入れたクラウスはどうなってしまうのか!? 「凄いのは俺じゃなくて、リリスなんだけどなぁ」 落ちこぼれ死霊術士と最強の美少女勇者(幽霊)のコンビが織りなす「死霊術」ファンタジー、開幕!

処理中です...