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Summer Camp
第57投
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「もっと体を大きく使って腕だけで投げない」
りかこの熱血指導は今日も続いた。練習・紅白戦が終わった後に行われる秘密特訓は今日で四日目になる。
「ちょっと休憩」
水を頭にかぶりマウンドにしゃがみこむ。
「情けないわね、でもだいぶ冷水は被らなくなっただけいいか」
りかこは物足りなそうに言いながらきな粉棒を久留実に手渡す。
「ありがとうございます。りかこさんもこの練習を?」
「やっていたわ」
苦悶の表情を浮かべながらりかこはこの一週間を振り返る。
「ふざけてるのかと思ったけど先生の指導は無茶苦茶のように見えて理に適っているわ。コースを意識するとどうしても小手先に頼りたくなる。でも横でスピードを計られれば腕を強く振らざるえない、そうすると気が付くのよ小手先で投げるより体を全部使ってボールに力をくわえた方がコントロールも威力も上がるってことを。まったく10年以上も野球をやってきてそんな簡単なことを見落としていたなんて」
「え、でも私の場合あんまり効果が表れていないような、だって全然コースに投げられていません」
「あんたおバカね」
りかこは手元に記した記録用紙を見せて、
「たしかにストレートの制球力はあまいけど、球数に対してストレートの平均速度が上がってる、これなぜかわかる?」
「どういうことですか?」
「外野手の練習をしてあんたはピッチャーの時には意識していなかったその他の大きな筋肉を使ってボールを投げているわ」
「言われてみればそうかもしれません」
「それにバッターとして打席に入るから自然と配球を考えるクセがついてきてるんじゃない? ただ投げるのではなくて意識してコースに投げる感覚が」
りかこに説明されて久留実は嬉しかった。その仮説が正しければ菜穂はまだ自分を切り捨てていない。まだマウンドに上がれる可能性は残っているのだ。
「これだけ言って理解したようね、だから必ずどこかでチャンスがくる。でもねそのチャンスを掴めなかったら今度こそアウトね。この合宿であんこはピッチャーとして自信をつけているし、希はセカンドのポジションを確立しつつあるわ。あんたがピッチャー出来ないとなるとこのチームにあんたの利用価値はないから」
話の途中でさらっと怖いことを口走った。久留実は青ざめて首を横に振る。
「それがいやだったら死に物狂いにやることね」
「はい私やります」
「焦らなくていいわ、ほらもっと休憩しときなさい」
「いえ続けます、りかこさんスピードガンを構えてください」
久留実は立ち上がり大きく振りかぶる。合宿は残り三日、最終日にはもう一度玄武大学とのオープン戦が控えている。必ず菜穂が指揮をとるはずだ。すべてはそこで決まる。
りかこの熱血指導は今日も続いた。練習・紅白戦が終わった後に行われる秘密特訓は今日で四日目になる。
「ちょっと休憩」
水を頭にかぶりマウンドにしゃがみこむ。
「情けないわね、でもだいぶ冷水は被らなくなっただけいいか」
りかこは物足りなそうに言いながらきな粉棒を久留実に手渡す。
「ありがとうございます。りかこさんもこの練習を?」
「やっていたわ」
苦悶の表情を浮かべながらりかこはこの一週間を振り返る。
「ふざけてるのかと思ったけど先生の指導は無茶苦茶のように見えて理に適っているわ。コースを意識するとどうしても小手先に頼りたくなる。でも横でスピードを計られれば腕を強く振らざるえない、そうすると気が付くのよ小手先で投げるより体を全部使ってボールに力をくわえた方がコントロールも威力も上がるってことを。まったく10年以上も野球をやってきてそんな簡単なことを見落としていたなんて」
「え、でも私の場合あんまり効果が表れていないような、だって全然コースに投げられていません」
「あんたおバカね」
りかこは手元に記した記録用紙を見せて、
「たしかにストレートの制球力はあまいけど、球数に対してストレートの平均速度が上がってる、これなぜかわかる?」
「どういうことですか?」
「外野手の練習をしてあんたはピッチャーの時には意識していなかったその他の大きな筋肉を使ってボールを投げているわ」
「言われてみればそうかもしれません」
「それにバッターとして打席に入るから自然と配球を考えるクセがついてきてるんじゃない? ただ投げるのではなくて意識してコースに投げる感覚が」
りかこに説明されて久留実は嬉しかった。その仮説が正しければ菜穂はまだ自分を切り捨てていない。まだマウンドに上がれる可能性は残っているのだ。
「これだけ言って理解したようね、だから必ずどこかでチャンスがくる。でもねそのチャンスを掴めなかったら今度こそアウトね。この合宿であんこはピッチャーとして自信をつけているし、希はセカンドのポジションを確立しつつあるわ。あんたがピッチャー出来ないとなるとこのチームにあんたの利用価値はないから」
話の途中でさらっと怖いことを口走った。久留実は青ざめて首を横に振る。
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「はい私やります」
「焦らなくていいわ、ほらもっと休憩しときなさい」
「いえ続けます、りかこさんスピードガンを構えてください」
久留実は立ち上がり大きく振りかぶる。合宿は残り三日、最終日にはもう一度玄武大学とのオープン戦が控えている。必ず菜穂が指揮をとるはずだ。すべてはそこで決まる。
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