拝み屋少年と悪魔憑きの少女

第一章

救済

「あぁそうか」

　ネロは吐息を漏らしながら魂が燃える音を聞いていた。本来なら佐伯に向けるはずだった憎しみの炎が内部で引火しじりじりと身体を包んでいく。

「当たり前だ。この世界でそれだけの力を使ったんだ。もうあなたの魂は耐えられない」

　ネロがこの状況から形勢逆転できる術はない。いかに悪魔祓いが手をやく悪魔だとしても、仏の力を有し、魂ごと引き込んだ世界では佐伯が破壊しない限り解放されることはないのだ。

「余は地獄に戻るというのか」

　ネロの顔色が歪んだ

　自分の敗北する事実が受け入れられない、わけではない。

　ネロはもう少しだけ佐伯と会話をしていたかった。短い時間だったとはいえ、自分の苦しみを共感してくれる相手が現れたのだ。

「見事だ、余をここまで追い詰めたのだ。だがこれで終わりではない。いずれ地獄から舞い戻り……」「あなたを地獄にはいかせない」

　最後の言葉を遮る佐伯にネロは首を傾げながら「なんを言う？」怪訝そうにつぶやく。

「あんたの記憶を覗いたとき分かった。あんたはただ救われたかった。人を疑う苦しみと悲しみから、俺はそんなあんたを救いたい」

「……余は悪魔だぞ」

「関係ねぇ、俺はあんたの魂を輪廻の輪に返す」

　佐伯は手を合わせ、瞼を閉じた。

「俺があんたを大日如来様のところに導く。だから安らかに逝け」

　詠唱を始める。

　アンネを苦しめていた悪魔を許すつもりはないが、祓って地獄に落とすつもりはもっとない。

　だからこそ、

　――大日如来様、あなたの力をお借りしながら勝手な行いをお許しください。

　佐伯真魚は、穏やかな表情で般若心経を唱えな終える。

　目の前の魂は消失し、はるか空を見上げながら祈る。

　――どうかこの魂をお救いください。