拝み屋少年と悪魔憑きの少女

第一章

複雑

　フーコから聞いたアンネの過去が本当なら今の彼女はその事実に耐えられるだろうか。おそらく耐えられないと判断したからこうやって迎えにきたのだろう。かつての仲間を守るために悪者を買って出たのだ。

「それをおろせ」

　そう言ってフーコをなだめたツァラトゥストラはそんなアンネを複雑な顔で見つめていた。佐伯からは背を向けたアンネの表情は見えない。ツァラトゥストラの顔を見るに一体彼女はどんな顔をして対峙しているのか気になってしまった。

「あなたも分かっているはずです、自分の心が整理できなくなっていることを」
「……」

「悪魔が心を支配したらそこにいる彼をもっと傷つけることになる。私たちはお二人を守りたいのです。協力してくれますね」

　視線をぴったり合わせてから念を押すような言い方にアンネは身体を震わせていた。

「私は……」

　返事を待たずしてアンネの身体は急に背骨がなくなったようにぐにゃりと傾いた。

　まるで練り上げていたはずの強い意志がぼろぼろと崩れてしまったように彼女は弱々しく彼らの手に落ちた。